AI外観検査とは|検査員を超える正確で柔軟な自動検査の実現

AI外観検査とは製造業界における製品の外観をチェックする作業を、AIを活用して自動化することです。
本記事ではAI外観検査と他のAI画像処理との違いや、AI外観検査の検査精度を左右するディープラーニングツールの選定、教示データ撮影のポイントについて解説します。

1. AI外観検査とは

「外観検査」とは部品や製品の外観をチェックし、キズや打痕、汚れや変色などの欠陥を確認して良否判定を行うことです。
工場の生産ラインでは短時間で大量に生産される製品の外観検査を行う必要があるため、カメラと画像処理を使用した検査の自動化が進んでいます。
しかし、依然として人手による目視検査も多く行われています。

外観検査の自動化にあたっては、検出したい欠陥が画像に映るようカメラ、レンズ、照明を選定し、撮影した画像から欠陥を検出するプログラムを画像処理ソフトウェアで開発します。
AI外観検査とは、その検査処理にAIを使用して開発することを言います。AI外観検査はAI画像処理の画像分類やセグメンテーションなどの機能を使用します。

本記事ではAI外観検査と他のAI画像処理との違い、外観検査にAIを使用することのメリット、AI外観検査の性能を大きく左右する教示画像撮影のポイントについて解説します。

2. AI画像処理における「AI外観検査」の位置づけ

AI画像処理の技術はここ数年で大きく進歩し、様々な業界・分野で実用化が進んでいます。
文章で条件を入れれば目的に沿った画像が生成される画像生成AIや、人を判別する顔認識、画像修復など身近なところでも利用されるようになりました。

しかし、ファクトリーオートメーションなど産業用途のAI外観検査はまだまだ導入実績が少ないのが実情です。その理由の1つとして、AI外観検査では「高い精度での判断が求められること」が挙げられます。

WEBブラウザで提供されるような多くのAI画像処理は生成もしくは推奨(サジェスト)機能であり、判断は行わないものがほとんどです。また、その結果が間違っていたとしても大きな問題にはなりません。
AI画像処理の実用化が着目される医療業界においても疾患の診断は必ず医師が行います。
それに対し、産業用途のAI外観検査では人に代わって「検査結果を判断」する機能が求められます。不良品を良品と誤判定した場合、不良品が市場に流出する可能性があります。逆に良品を不良品と判定する過検出が増えすぎるとライン停止が発生し 、生産スケジュールに影響しかねません。
そのため、AI外観検査は人に代わる高い判定精度を求められ、生産現場へ導入するには多くの課題をクリアする必要があります。

またAI画像処理には教示データとして膨大な画像データが必要です。
AI外観検査は通常検査用途が限られているため実際の検査ターゲットの画像のみを用意すれば良いのですが、逆に言えば汎用データは利用できず、プロジェクト毎に検査ターゲットの画像を撮影する必要があります。
AI外観検査において十分な検査精度を得るための画像を多数用意することに多大な労力がかかることも課題の1つとなっています。

3. ルールベースとAI外観検査の違い

カメラと画像処理を使用した外観検査の自動化は数十年前から行われてきました。
その画像処理の多くはルールベースと言って判定基準を明確に数値で定義し、それを超えていたら欠陥であると判断するものです。

ルールベースの外観検査には様々な手法があります。
例えば金属表面の周辺に打痕欠陥があり、それを同軸照明とカメラで撮影すると欠陥は周囲より暗く映ります。
画像処理プログラムとしては、閾値処理で暗い領域のみを抽出し、一定面積以上であれば欠陥であると判断されます。
しかし、実際現場で外観検査を行う対象物はこのようにシンプルなものだけではありません。

金属の切削面を撮影すると、欠陥の他に表面に加工痕や素地模様が映りこみます。
この中で加工痕や素地模様を拾わずにキズや打痕だけを検出したいといった場合、照明や撮影するカメラを増やすことや複雑な画像処理プログラムを検討する必要があります。
また、凹凸の激しい複雑な形状の対象物の場合、欠陥の他にその凹凸が輝度変化として映りこむことで欠陥検出の難易度が上がります。
検査精度を厳しくすれば過検出が増え、緩くすれば検出漏れが増えます。人のように柔軟に欠陥のみを判断するには非常に高度な画像処理が必要です。

ここで活躍するのがAI外観検査です。
AI外観検査では良品と不良品の撮影画像を教示データとして読み込ませることで、良品から外れる箇所を抽出し「不良」と判断します。不良品の欠陥が複数種類におよぶ場合、欠陥種類ごとに不良品画像を登録することで欠陥の種別も判定します。
加工痕や素地模様が映りこんでいる画像を複数パターン読み込ませることで、AI外観検査は欠陥と周囲の模様を区別できるようになり、人に近い柔軟な判定ができるようになります。

AI外観検査と聞くと革新的な新しい技術というイメージがあるかもしれませんが、外観検査画像処理ではそれに近い機械学習を利用した画像処理は以前から利用されていました。
AI外観検査に利用される処理エンジンはディープラーニングとも呼ばれます。ディープラーニングと機械学習の違いは、学習内容を明示しなくても画像を登録するだけで自ずとトレーニングすべき内容を判断し分類器を生成できる点です。

既存の機械学習では、どのような特徴量を用いて分類を行うかを、開発者が決定します。
例えば、キズか異物か汚れかを分類するために、面積、円形度、輝度平均値を判断の指標に使用すると開発者が決めます。
この特徴量選択が分類性能に直結するため、開発者の経験や技量が検査性能に大きく影響します。
一方でAI外観検査では、欠陥を区別しやすい特徴量をディープラーニングで自動的に抽出します。

既存手法Deep Learning
特徴量抽出手動自動
精度手法に依存無制限
学習時間速い演算力依存
データセット少ない画像で充分大量の画像が必要

4. AI外観検査の構築に必要なツールとデータ

AI外観検査の構築にはAI外観検査に適したディープラーニングツールと欠陥箇所を可視化した教示用画像が必要です。

AI外観検査に適したディープラーニングツール

AI画像処理が広く普及されはじめ、様々なAIエンジンが利用できるようになりました。
AI外観検査の開発では以下に挙げるような機能を搭載した、産業用途に特化したディープラーニングツールが望ましいと言えます。

画像分類

教示画像登録時に登録したラベル内容に応じて画像を分類します。
良品と不良品の分類はもちろん、欠陥の種類別に登録することで欠陥種別の分類も可能です。

オブジェクト検出

登録されたオブジェクトを抽出します。背景模様に関係なく特定することで複数種類の対象物が混在する中からでも認識し位置を特定することができます。

セグメンテーション

周囲のデータと比較してパターンが異なる領域を分類し抽出します。例えば木材の表面で細かい木目と節といった異なる特徴を分類します。

アノマリー検出

データの異常な振る舞いやパターンを検出するための手法です。良品画像のみトレーニングしたデータセットから異常値を持つ不良品画像を特定します。

画像処理ソフトウェアHALCONはここに挙げたAI外観検査の構築に必要なディープラーニング機能の他、ルールベースでの画像処理も併用できる画像処理開発環境です。

AI外観検査に必要な教示データ

AI外観検査では多数の良品画像と不良品画像を教示データとして読み込ませる必要があります。
AI外観検査の精度は採用するディープラーニングツールに加えて、トレーニングする教示用画像の質に大きく依存します。
AI外観検査の教示データには、実際に現場でインライン検査を行うのと同じ機材・条件で撮影した検査対象物の画像が必要です。
良品画像のみのトレーニングで欠陥を判別するアノマリー検出といった機能もありますが、製品ごとに個体差がある場合や、複雑な形状の対象物、欠陥の周囲に素地模様などが映りこむケースでは不良品画像のデータも登録することで検査精度が向上します。
教示用画像は少なくとも数十枚、個体差がある場合や素地模様が見られる場合は数百枚の画像をトレーニングします。

5. AI外観検査の精度を左右する教示用画像

AI外観検査の教示データには実際の検査で使用するカメラや照明を使用して撮影した画像を入力しますが、カメラや照明はいかに欠陥を可視化できるかを重視して選定する必要があります。
その画像から人の目でも欠陥がわからない場合はさすがにAIでも正しく判断することはできません。

人が不良品を判断する際、どのように物を見ているでしょうか。
2次元的な情報に加えて、3次元的な情報も使い、光の当て方を変えたりしながら輝度の違いや色の違いも使って見ています。

また、インライン検査における外観検査では通常多数の検査項目が設定されます。
欠陥種類によって可視化しやすいセンサーやカメラ、照明条件が異なります。

欠陥の例適した撮影機器
打痕、異物など急な高さ変化がある欠陥3Dセンサー、2D+同軸照明・ローアングル照明
線キズや髪の毛など細く長さのある欠陥2D+同軸照明・ドーム照明
汚れ、シミ、変色など色や輝度に変化がある欠陥2Dカラー+同軸照明・ドーム照明
膨らみなどの緩やかな凹凸3Dセンサー

例えば、ベアリングの外観検査では、汚れ・シミ、細い線キズ、打痕・変形といった不良を検出する必要があります。
汚れやシミは白色照明とカラーカメラができれば可視化できます。細い線キズは解像度の高い2Dカメラと同軸照明が映りやすいでしょう。打痕や異物といった凹凸変換は局所的な欠陥であれば線キズと同様の方法で可視化が可能ですが、緩い凸や変形に至っては2Dでは検出が難しく、3次元センサーなどの高さ情報が活躍します。
このように、2Dでしか見えない欠陥もあれば、3Dでしか見えない欠陥もあります。

精度の高いAI外観検査には、このような各種照明条件、カラー画像、3D情報といった複数の要素を教示画像として取得できる環境が望ましいと言えます。
しかし、目視と同じ情報量をカメラで撮影するとなると何台もカメラや照明を設置する必要があります。複数の照明条件に分けて撮影する場合は、お互いの照明が影響しないよう離れた位置に設置するため、スペースも確保しなくてはなりません。
プログラム開発だけであれば机上で進められますが、AI外観検査に必要な量の教示データの用意は、現地の限られた時間の中でセッティングと撮影まで終わらせる必要があります。

6. AI外観検査に最適なカラー3Dラインスキャンカメラと複合照明

このように検査精度の高いAI外観検査を構築するには様々な撮影条件における画像を読み込ませたい一方で、その機材のセッティングや撮影には膨大な労力がかかります。

Chromasens社の提供するカラー3Dラインスキャンカメラ3DPIXAと複合照明の組み合わせはこのジレンマに新たな解決策を投じます。
精度の高いAI外観検査に必要とされる、複数の照明条件の画像と3次元データを一度に取得し、そのままAI外観検査に流し込むことができます。

3DPIXAは2Dカラー画像と3D高さ画像を1回のスキャンで撮影できる3Dラインスキャンカメラです。 RGBのTri-linearセンサー2組をステレオに配置し、高精細なカラー画像とサブミクロン精度の高さデータを同時に取得します。
インライン検査に十分対応できる高速撮影が特徴で、1ライン15,000画素の高解像度撮影でラインレート18kHzの高速スキャンが可能です。
鮮明なカラー画像と高さデータを組み合わせることで2Dカメラでは対応できない高度なAI外観検査を可能にします。

ラインセンサー用高輝度LED照明も展開しており、暗視野・明視野・チューブ・同軸タイプから、アプリケーションに応じて最適な照明を選択できます。
特にAI外観検査では複合照明という特殊照明が活躍します。
①チューブ(ドーム)、②暗視野(ローアングル)、③同軸の異なる3つの照射方式の照明を1つに連結し、全てを常時点灯で使用します。
3DPIXAはR,G,Bの3つのセンサーを搭載しています。各照明の色をR,G,Bの3色に分けることで、各色のセンサーは同じ色の照明方式の画像を撮影します。
これにより、3つの照射方式のモノクロ画像を1スキャンで取得できます。

これに高さ画像を加えた4つの画像から、AI外観検査のあらゆる欠陥項目を可視化することが可能となり、検査性能が各段に向上します。

それぞれの照明方式の画像をそのままAI外観検査に流し込むことも可能ですが、複合照明にはさらなるメリットがあります。
複合照明では3つの異なる照明条件の画像が同じ座標系で取得できるので、画像を組み合わせることでより欠陥を明確化できます。
例えば、明視野照明画像(B)からドーム照明画像(R)を引き算するといった処理で、背景をキャンセルしながら欠陥のみを浮き立たせた画像が得られます。

画像処理ソフトウェアHALCONのAI外観検査では3チャンネル画像を教示データとして入力することができます。
欠陥が可視化された複合照明の画像と高さ画像を組み合わせた3チャンネル画像をAI外観検査の教示データとすることで、プロの検査員に近い、高精度で柔軟な外観検査システムを構築することができます。
またHALCONはAI外観検査の他、ルールベースの画像処理も自在に組むことができるので、複数の照明条件の画像合成も1つのプログラムで完結します。

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