これまでのマシンビジョンと、エンベデッドビジョンの理想
現在主流のマシンビジョンカメラシステムは、簡略化すると「カメラ」と「PC」という二つの要素で構成されています。
カメラで撮像した画像は、GigE Vision や USB3 Vision、Camera Link、CoaXPress といった標準インタフェースを介して PC に伝送され、PCに搭載されたCPU上で画像処理が行われます(図1)。
一方で10年ほど前から「エンベデッドビジョン」という考え方が登場しています。
これは、カメラ内部に存在していた ISP(映像信号処理)をプロセッサ側へ移し、イメージセンサーを直接プロセッサに接続するアーキテクチャです。(図2)
図1 | 図2 |
スマートフォンではすでに一般的なこの構成は、小型・低消費電力・コスト面で優れたシステムを実現できるという点で、マシンビジョン分野でも活用が拡がる事が期待されてきました。
しかし、理想的に見えるこの構成には、産業用途ならではの現実的な課題が存在していました。
普及を阻んでいた現実的なハードル
リンクスのソリューション事業では、これまで産業装置向けにMIPIセンサーとArm系SoCを用いたエンベデッドビジョンシステム、さらにはSerDes 技術(*)を活用したエンベデッドビジョンシステムを構想・提案し、多くのカスタム受託開発実績を重ねてきました。
*SerDes: Serializer/Deserializer の略称。MIPIのような高速インタフェース信号を長距離伝送することができる技術。
しかし、多くの提案を重ねていく中で、業界へのエンベデッドビジョンの拡がりを阻む、以下のような三つのハードルが浮き彫りになりました。
- プロセッサ演算性能のハードル
産業用途で経済的に選択可能なエンベデッドプロセッサ(Arm系SoC)は、今日のマシンビジョンで一般的に使用される産業用PCに搭載されているCPUに比べると演算性能が潤沢ではなく、複雑な画像処理を要求性能を維持したまま移植することが難しいケースが多々ありました。 - 既存ソフトウェア資産活用のハードル
国内の産業装置メーカー様の多くは、Windows 環境で画像処理アプリケーションを構築しているケースが多く、Arm系SoCで用いられるLinux 前提のエンベデッドシステム構成ではこれらの既存設計資産を活かしきれませんでした。 - 初期開発コストのハードル
エンベデッドビジョンシステムは基本的に装置構成に合わせたカスタムでの開発が前提となるケースが多く、初期投資の観点で導入に至らない事がありました。
リンクスが提案する新しいエンベデッドビジョンの形
これらの課題を背景に、この度リンクスで自社開発した新しいカメラソリューション「Proteus」をご紹介します。
Proteus は、
「PCに搭載されたx86系CPUに、フレームグラバーを介してイメージセンサーを直結する」
というアーキテクチャを採用しています。
図3
従来のマシンビジョンカメラでは、イメージセンサーに加え、ISP や高速メモリ、インタフェース規格固有の制御ロジックなどがカメラ内部に搭載されていました。Proteus では、これらの機能をフレームグラバー側へ集約し、カメラヘッドにはセンサーとシリアライザのみを配置しています(図3)
このいわゆる「ヘッド分離型」構成によって、カメラヘッドのダウンサイジングおよび、消費電力/発熱の大幅な低減を実現しつつ、従来のPC ビジョンで求められてきた高い演算性能をそのまま活用できる点が、Proteus 最大の特徴です。
Proteus は Windows 用 SDK を提供しており、また弊社で取り扱っているHALCON からもシームレスに画像取り込みが可能です。既存のWindowsアプリケーション(特にHALCONアプリケーション)との親和性が非常に高いソリューションとなっています。
アプリケーション設計者の視点ではあたかも従来のマシンビジョンカメラを扱っている感覚で、エンベデッドビジョンシステムの恩恵を得る事ができます。
Proteusはカスタム開発を前提としておらず、標準製品として幅広いお客様へ初期開発費不要でご提供いたします。
Proteusがもたらすメリット
実際の評価例として、5MP グローバルシャッターセンサーを用いた比較では、同一の撮像条件においてUSB カメラと比べて外装温度が約 25℃ 低い結果が得られています(図4)。
この低発熱特性は、単なるハードウェア上の利点にとどまりません。
高精度アライメント用途を想定した評価では、カメラの自己発熱による光学系の歪みが抑制され、μm オーダーの計測安定性が向上する結果が確認されています(図5)。
図4 | 図5 |
別の利点として、Proteusでの画像取得はハードウェア処理で完結し、アプリケーションが参照するメモリ領域へ直接画像データ転送されるため、画像を取り込むためのCPU処理が発生しません。カメラの台数が増えてもCPU負荷が上がらず、Camera Link や CoaXPress と同等のリアルタイム性能を実現することができます。
標準インタフェース規格に対する位置づけ
Proteusでは、SerDes技術の活用によりイメージセンサーとフレームグラバー間の接続には最大15Mまでの同軸ケーブルを使用できます。
従来の標準インタフェース規格に対して、Proteus は、データレート・ケーブル長・リアルタイム性のバランスという点で、ちょうど中間の位置付けにあります(図6)。
各インタフェース規格には一長一短があるためすべての用途を置き換えるものではありませんが、アプリケーションによっては非常に “ちょうど良い” 選択肢と成りうるかと思います。

おわりに
Proteus は、エンベデッドビジョンの小型・低発熱という利点と、PC ビジョンの高性能・既存資産活用を両立する、新しいカメラソリューションです。新しいビジョンシステムを検討される際には、ぜひ Proteus を選択肢の一つとしてご検討ください。
具体的なイメージセンサーのラインナップやリリース時期などの詳細については弊社営業担当までコンタクト願います。

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