オートフォーカスが必要とされる理由
半導体は微細化技術の進化だけでなく、チップレット化や2.5D / 3Dの実装技術なども組み合わせた高性能化がますます進んでいます。AIの普及に伴いこの流れは今後ますます勢いを増していくことが予想される中で、検査技術の向上も望まれています。
ピクセル分解能の観点で言えば、過去は5um/pixelだったものが現在は1.5um/pixelが主流になり、将来は1um/pixel以下が求められており、既にそういったチャレンジングな課題に取り組まれている検査装置メーカーもあります。
ピクセル分解能が細かくなると、様々な課題があります。中でも深刻な課題の一つがレンズの被写界深度です。レンズが高倍率になると、被写界深度が極端に狭くなるため、検査対象の僅かな反りによってピントが合わないケースが出てきます。
表1: レンズ絞りF2.8、ピクセルサイズ5µmと仮定した場合のピクセル分解能ごとの被写界深度の例
分解能 | 被写界深度 |
---|---|
1μm/pixel | 13μm |
2μm/pixel | 31μm |
3μm/pixel | 54μm |
4μm/pixel | 80μm |
5μm/pixel | 112μm |
レンズを絞って被写界深度を拡げることも可能ですが、ただでさえ感度を稼ぐことが難しい高倍率な検査においてレンズを絞ることは、感度の観点でより不利になるだけでなく画像のMTFにも悪影響を与え撮像品質の低下を招きます。そのため、高倍率で検査を行う為にはオートフォーカスシステムが必須になってきます。
異なる二つの課題に対するオートフォーカスソリューション
オートフォーカス(以下:AF)が必要とされる状況は大きく二つあります。
一つ目はウエハーや基板のたわみなどスロープ状に高さが変化する場合、二つ目はバンプの上面と基板面など段差状に高さが変化する場合です。
今号では課題1に示すスロープ状の高さ変化に対応するAFソリューションについてご紹介します。
課題1:スロープ状の高さ変化 ・ウエハー/基盤のたわみ など | 課題2:ステップ状の高さ変化 ・バンプのトップと基板面の段差 など |
リンクスの提案するオートフォーカスソリューション
スロープ状の高さ変化に対するAFの課題
スロープ状の高さ変化に追従し、1μm/pixelのような高分解能な検査を実現するAFには下記のような様々な課題があります。
- オン・ザ・フライでピンぼけなく撮像し続けられない
- レンズが大きく限られたスペースに設置できない
- ワーキングディスタンスが狭く検査に適した照明が使用できない
- 解像力の固い画像が撮れない
- 画像の感度が悪い
- スキャン速度が遅い
- 視野幅が狭い
これら課題を解決しようとするときに重要なことは、いかにしてAFモジュール全体としてやりたい検査ができるようにするかということです。こういったチャレンジングな課題の場合、最高性能のコンポーネントを組み合わせてもやりたいことができないケースは多く、モジュール全体での最適化がキーポイントになります。
リンクスが提案するAFソリューション
TDIラインスキャンカメラ | オートフォーカスモジュール |
この度リンクスではTeledyne DALSAのTDIラインスキャンカメラと組み合わせて使用するEnvision社のオートフォーカスモジュールの取り扱いを開始します。
Envisionは韓国・ソウルに本社を構えるマシンビジョンソリューションの設計/開発、代理店販売を行う会社です。韓国の顧客課題を解決する上質なソリューション提案を行うために、自社での研究開発能力とフィールドサポート能力の向上のための人材採用など多額の投資、顧客に対してのより強いコミットメントをした結果、韓国の最先端の半導体、ディスプレイ市場で圧倒的な実績と大きな成功を収めています。
オン・ザ・フライで高精度に追従するための工夫
EnvisionのAFモジュールには、上述した7つの課題をDALSAのTDIカメラと組み合わせて解決するための様々な工夫が兼ね備えてあります。今回はその中から特に重要となるセンサー部分の特長と、アクチュエーター部分の特長についてご紹介します。
オートフォーカスモジュールのシステム構成
1.オートフォーカスセンサー(AFS)の工夫
フォーカス調整の為のAFSには三角測量法を用いたレーザーを使用しています。AFモジュールとしてはレンズの中を測距レーザーが通過するTTL(Through The Lens)という方式も存在しますが、以下の表に示すようなメリット/デメリットがあります。
Envisionでは韓国の半導体、ディスプレイ市場の顧客のニーズに対応するために様々な手法を検討、評価し、特に半導体/ディスプレイ市場の検査対象に対して速度、精度ともに高いレベルで要求に応えるためには三角測量がベストだと判断しています。
表2: 三角測量法とTTL法の比較
レンズ倍率が上がり、被写界深度が浅くなっていく中で対象物との距離を正確に測ることはAFにおけるコアとなる最も重要な性能の一つです。EnvisionではAFSの改良を継続的に行っており、最新モデルの第三世代AFSではより正確な距離計測を実現しています。
下図は第二世代と第三世代で同一サンプルを評価した時のAFSの応答を示したものです。
図に示される山の位置がZ方向の位置を示しており、山の幅が細くシャープであるほど点での検出に近づいていることを意味しています。山の高さは検出スコアを示しており、山が高ければ高いほど計測結果に信頼がおけることを意味しています。
上下で比較すると、第三世代では山の幅は狭くなり、山の高さは高くなっていることから、より高精度で物体検出ができていることがわかります。
2. オートフォーカスアクチュエーター(AFA)の工夫
高精度で距離計測ができるようになったとしても、追従するためのアクチュエーターがそれに応じて動作できることが重要です。一方でAFモジュール全体は11kg-15kgほどの重量があり、高速かつ高精度に動作させることは簡単ではありません。
Envisionでは、1um/pixelを切るような高分解能、もしくはラインレート400kHzを上回るような高速でオートフォーカスしながらスキャンする用途に合わせて、アクチュエーターを2つ使用するデュアルモーションAFAをラインナップしています。
これにより、シングルモーションAFAでは実現できなかった速度、精度でのオートフォーカススキャンを可能にしています。
デュアルモーションAFAを使用し、0.5μ/pixel分解能でパターンウエハを撮像した画像を示します。カメラやレンズなどは下記です。
- カメラ : Linea HS 16K 400kHz
- レンズ : Apo Diamond 10x (自社カスタムレンズ)
- 倍率 : 10x
- 被写界深度 : 2.5 ~ 3um
スキャン方向に対して画像が上向きに傾いているようなケースで、AFがONの場合、OFFの場合の画像です。
動作イメージ
AF OFFの場合、スキャンが進むにつれピンボケが発生していますが、AF ONの場合画像全体にわたってピンボケを起こしていないことがわかります。
オートフォーカスモジュール(AFM)の製品ラインナップ
AFMの製品形態としてマクロレンズシステムと対物レンズシステムの二種類があります。先程ご説明した通り、一般的な使い方においては標準モデルを、高速・高精度に使う場合においては高速モデルをご提案します。
マクロレンズシステム ![]() 標準モデル:シングルモーションアクチュエーター ![]() 高速モデル:デュアルモーションアクチュエーター | 対物レンズシステム ![]() 高速モデル:デュアルモーションアクチュエーター |
レンズは色収差や歪み、レンズそのもののサイズなどを考慮したEnvision独自のカスタムレンズを採用しており、下記の倍率のご用意があります。
マクロレンズのラインナップ:1.67倍、2.5倍、3.33倍、5倍、10倍
顕微鏡レンズのラインナップ:8倍、8.65倍、11.25倍、12.5倍、13.84倍、18倍、21.62倍、28.12倍
詳細な仕様に関してご興味がございましたらお問い合わせください。
画像センシング展への出展のご案内
リンクスでは6月11日(水)-13日(金)の3日間パシフィコ横浜で開催される画像センシング展に出展致します。
今回ご紹介したオートフォーカスソリューションの展示だけでなく、会場で行われるセミナーでのより詳しいご紹介がございます。また、最新版のHALCONを使用したDeep Learningデモ機や、iRAYPLE、Teledyne DALSA / FLIR、Baslerカメラのデモ機、LMI Gocatorをはじめとした3次元センサーのデモ機など検査のお困りごとにお応えできる様々なアプリケーションデモを展示予定です。
皆様のご来場をお待ちしております。
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