AGV/AMRの安全規格とそのトレンド
AGVを始めとした無人搬送車の需要の高まりは留まりを見せず、工場内での利用から物流倉庫での活用といったように、その活用場面も拡大を見せています。その中で無人搬送車における安全規格も大きな変化があり、これに関する国際安全規格ISO-3691-4が2020年発行されました。またこの発行をきっかけに、JIS規格(JIS D 6802)も2022年に大幅な改定が実施されました。
今回この安全規格の中でも特に出力側に要求される安全機能に焦点を当てて詳しく解説します。またこの安全規格に対応するために有効な手段である安全機能つきサーボドライブSynapticon SOMANETシリーズについても併せて解説します。
Synaticon Circuloを搭載したAGVイメージ図
JIS6802:2022への対応の概要
JIS D 6802は2022年に無人搬送車に関する安全規格ISO3691-4の制定を受けて改定されました。ここではJIS D 6802に焦点を当てて、具体的にどういった内容の改定があったのか、この規格に対応するための内容について詳しく解説します。
JIS D 6802:2022の主な変更内容は以下の2点です。
旧JISからの主な変更内容
■変更内容1:
無人搬送車システムの製造者(すなわち無人搬送車メーカ)が守るべき安全要求事項に対して規定。(旧JISでは運用者側の安全確保についても記載があったが国際安全規格に合わせる形でこれらの内容を削除)
■変更内容2:
制御システムの安全関連部の設計及び安全機能を実現するために要求されるPL(パフォーマンスレベル)を規定。(旧JISでは安全機器を設けることについての言及はあったがそのPLについては規定されていなかった。今回、国際規格に合わせる形でPLが規定された)
細かい変更内容は上記以外もあますが、AGV/AMRを開発・製造する側にとって最も影響が大きかった内容は“変更内容2”に関する事項です。これまでの安全規格ではパフォーマンスレベルが規定されなかったことで、構成する安全機器についてはある程度開発者側に選択の余地がありましたが、この改定により、高い安全レベルの機器を選定する必要(すなわち安全認証を取得した安全機器を選定する必要)が出てきました。例えば人検出のための安全機能は、そのパフォーマンスレベルをd以上にする必要が出てきました。言い換えると、これまで非安全認証品を用いていた場合でも、安全規格の適合として認められていましたが、最新の安全規格に対応するためには、このパフォーマンスレベルを何らかの形で自己で証明する、もしくはこれに対応した安全機器(PLが謳われている安全機器)を選定する必要が出てきました。
パフォーマンスレベルとは
安全規格ではその安全性能(信頼度)について明確な定義がされており、ISO13849-1によってそのパフォーマンスレベルがカテゴライズされています。具体的には何等かの故障等によってその所望の機能が働かない可能性をa~eの5段階でカテゴライズしています。尚、aが最もゆるくeが最高レベル(最も信頼性が高い状態)です。一般的にその事故が発生することで何らかの重篤な状況(例えば死亡)に陥るケースでは、PLをdもしくはeにすることが要求されるケースが多くなっています。
尚、PLと同様の指標であるSIL(Safety Integrity Level)がIEC61508-1で規定されてます。例えばSIL3製品はPLeに相当しますが、ここでの詳細説明は割愛します。
AGV/AMRに要求される安全項目とそのPLについて
ここではJIS D 6802に記載されている安全の要求項目とそのパフォーマンスレベル(PL)について具体例を挙げて解説します。
まず車両の安全には機械的に順守すべき項目と、電気的、システム的に順守すべき項目に大別されます。例えば機械的な非常停止機能(非常停止SW等)は、明確に視認、識別が可能で且つ操作可能な位置に取り付ける必要がありますが、こうした項目は所謂機械的に達成すべき項目です。
一方で電気的、システム的に順守すべき項目は、ブレーキシステム、速度制御等、人検知システム等、多岐に渡り、こうした項目の多くは、その監視や制御機能を設けるだけでなく、そのPLも達成する必要があります。具体的な機能とPLの関係はJIS D 6802の4.11の表2に記載があるので、そちらを参照してください。ここではその表に記載のある特に注意すべき項目についていくつかご紹介します。
①ブレーキシステム(要求パフォーマンスレベル:PLd以上)
JIS D 6802によると、ブレーキシステムの搭載は必須要件でこれは機械的な要求です。一方でブレーキシステムは速度制御、操だ制御が正常に動作できなかった際に自動で発動されるよう構築する必要があり、これはシステム的な要件です。更にこのブレーキシステムのPLはd以上であることが要求されています。言い換えると単にブレーキシステムを設けるだけでは不十分でPLの達成が必須要件になっています。
②速度制御/速度監視(要求パフォーマンスレベル:PLc~d以上 ※項目による)
車両には車両の速度超過、即ち速度監視を行う仕組みを設ける必要があり、このPLはc以上であることが要求されています。速度監視を行う手段については特に規定がないので、どういった手段を用いて速度監視するかについては設計者側に委ねられています。ただし一般的にマイコンやPLC等のソフトウェアで監視する場合、そのPLを証明することが困難であるため、一般的にはセーフティエンコーダ等を用いたハードウェアレベルでの安全速度監視が必要と解釈できます。
③人検出システム(要求パフォーマンスレベル:PLc~d以上 ※項目による)
人検出のための手段(バンパセンサ、レーザセンサ等)を設け、そのPLレベルはc~d以上である必要があります。速度監視と同様にPLが規定された製品(例えばセーフティLiDAR等)を選定する必要があります。
④非常停止機能(要求パフォーマンスレベル:PLd以上)
外部からの非常停止信号を受けた際、車両の動力の停止ブレーキが発動される必要があり、このPLはd以上である必要があります。
最新の安全規格に対応したSynapticon SOMANETシリーズ
前述での説明の通り、最新の安全規格に準拠するためには、システムとしてその機能を設けるだけでなく、そのPLを各安全要求事項に対して達成する必要があります。この安全規格に対応したサーボドライブがSynapticon社の SOMANETシリーズです。
同社のサーボドライブは、AGV/AMR向けに設計された小型で且つハイパワーなサーボドライブです。またこのサーボドライブは最新の国際規格、JIS規格に柔軟に対応が可能な安全機能を搭載しています。更に高度な制御技術によりあらゆるメーカのモータと組み合わせて利用できます。本章ではSOMANETシリーズが有する安全機能についてご紹介します。
Synapticon社のSOMANETシリーズに搭載されている共通の安全機能としてSTO/SBCがあります。STO機能は安全のに出力を停止する機能、SBCは安全にブレーキ制御を行う機能で、これらの機能のPLは最高レベルのPLeを取得しています。この項目におけるISOおよびJISで要求されている要求レベルはPLdなのでSOMANETシリーズを採用することでこの安全機能の実現が可能です。一方でCirucloにはオプションの安全モジュールを用いることで、安全速度監視にも対応可能です※1。このようにSOMANETシリーズにはサーボドライブ内部に安全機能を搭載することで、最新の安全規格に対応したAGV/AMRのスマートな開発を強力にサポートします。
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リンクスではSynapticon社のサーボドライブだけでなく、同社のサーボドライブと連携可能なAGV向けモータメーカのご紹介や、車両メーカのご紹介も可能です。また最新のAMRを自社で開発されたい方向けの最新AMR開発用ソフトウェアNAVTEC製品の取り扱いも行っています。お気軽にお問合せください。
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