IoTやAIの技術が飛躍的に進歩したことを背景に、工場のスマートファクトリー化が急速に進んでいます。スマートファクトリーとは、工場内の各機器をネットワークにつなげて全ての稼働状況を可視化し、そのデータを使ってより効率的にモノづくりを行う工場のことです。従来の工場と異なるのはどういった点で、どのように実現できるものなのでしょうか。ここでは、スマートファクトリーの概要とメリット、さらに実現にあたってのポイントについて解説します。
スマートファクトリーとは?
スマートファクトリーとは、製造に使う機器をネットワークに接続し、全ての稼働状況を可視化、さらにそこから得られたデータを蓄積・活用して製造の効率を最大化しようという試みです。ドイツで提唱された「インダストリー4.0」という概念にその端を発しています。
インダストリー4.0についての詳細は、「インダストリー4.0とは?課題点や実現のポイントを解説」をご覧ください。
また、データ活用だけではなく、「人が判断して機械が作業する」という従来の自動化をさらに推し進め、「機械が判断して機械が作業する」という効率化を実現していることもポイントです。こうした判断まで行うことを機械の「知能化」と呼びます。例えば、ロボットに人工知能やマシンビジョンを導入し、ロボット自体が考えて組み立てを行うことが目標です。
マシンビジョンについての詳細は、「マシンビジョンとは―急速に普及する背景と導入によるメリット」をご覧ください。
スマートファクトリーの実現が可能になったのは、IoTと人工知能(AI)の技術が飛躍的に進歩したためです。加えて、人工知能やマシンビジョンが現実的なコスト・信頼性で実現できるようになったのも大きいと言えます。
スマートファクトリーのメリット
スマートファクトリーの実現は多くのメリットをもたらしますが、製造業でよく使われる指標である「QCDM(品質・コスト・納期・人材)」の視点で昨今の製造業が抱える問題から見ていくと分かりやすいでしょう。
メリット1.品質面
まず、品質(Q)の問題に対するメリットです。
製造業に求められる最も大切なものは「製品の品質」です。消費者向け・企業向けのどちらであっても、特に日本の顧客は製品に対して世界的に見ても非常に高い品質を要求しています。
さらに昨今では、顧客が満足する価値は従来よりも多様化してきています。つまり、製品に求められる品質が多様化しているのです。これに伴って、生産システムにも変化が求められています。例えば、同じものを大量に作ってコストを下げる少品種大量生産から、さまざまな種類のものを少量作る多品種少量生産へのシフトです。
このようなケースでは、臨機応変な生産システムの構築が欠かせません。ここで、先に述べた「機械が判断する」知能化の高効率性が生きてくるのです。このことから、スマートファクトリーのメリットの1つ目として「顧客要求の多様化に伴う柔軟な生産システムの構築」が挙げられます。
メリット2.コスト面
コスト(C)の問題に対するメリットも重要です。
例えば、検査工程は従来人手によって行われていました。それが、昨今では人工知能を導入するような手法で、できるだけ人手を介さない方向で進歩しています。生産に関わるコストのうち人件費は大きな割合を占めており、人手を減らすことでコスト削減につながるからです。ただし、人手は柔軟性に富んでおり、混流生産ラインでは最も効率的な手段です。
そこで、人間の持っている柔軟さを維持しつつ自動化できないかという観点で、検査工程の改善が図られてきました。ひとつの回答が人工知能(AI)を使うことです。人工知能は人間の経験を学習して人に近い柔軟な対応を可能にします。この人工知能も、スマートファクトリーの重要な構成要素のひとつです。人工知能を使って人間の持つ柔軟性を維持しつつ、より効率の高い検査工程を実現することができるのです。つまり、スマートファクトリーのメリットの2つ目は「効率の高い生産システムを低コストで実現すること」です。
メリット3.納期面
納期(D)の問題に対するメリットもあります。
近年、顧客ニーズの変遷が早まっていることを受け、製品の市場におけるライフサイクルが短くなっています。このため、製造業では次々と新しいモデルを開発し、市場に投入していかなくてはなりません。これは、生産ラインを一気に立ち上げて、短い期間での設備投資回収が必要ということでもあります。部品や組み立ての短納期化を受けて、納期管理はより重要になってきているのです。
納期管理は「組み合わせの最適化問題」の場合が多く、人工知能の得意分野です。この人工知能を納期管理に使用することで、特に部品の点数が多く、複雑な製品の場合に効果を発揮します。
また、営業からメンテナンスまでを統一して管理することができれば、製品のライフサイクルを統合的に管理することができ、各工程間の連絡や情報共有がスムーズにできます。これをPLM(Product Lifecycle Management)と呼びますが、これもスマートファクトリーの一環です。つまり、スマートファクトリーの3つ目のメリットは「納期の最適化と短納期化に対応できること」と言えるでしょう。
メリット4.人材面
人材(M)の問題に対するメリットもあります。なお、ここでいう「M」とは「生産の4M」の中の「Man」を指します。
近年、製造業では団塊の世代の大量退職により、特に現場の熟練技術者の不足が深刻になっています。昔であれば、熟練技術者と一緒に若い技術者が働くことで、技術の継承が行われていました。しかし、深刻化する労働人口の減少を受けて、製造業でも技術を継承していく人材がおらず、生産技術力の低下が懸念されています。
一方、スマートファクトリーに導入される人工知能は、学習することでその力を発揮します。ここで、人工知能に知識や経験をインプットする立場として、熟練技術者が活躍できるのです。ときどき工場へ出向くか、あるいはオンラインで学習させる作業を行うことで、熟練技術者から人工知能への技術継承を行うことができます。
これにより、企業にとっては第一線を退いた技術者であっても生産現場では重要な戦力となることができます。今後、経験豊富な熟練技術者がより必要とされる時代が来るかもしれません。熟練技術者にとっては、体調に無理のない範囲で仕事ができ、副収入を得られるというメリットがあります。また、自分のやってきたことが活かせるため、生きがいになるかもしれません。つまり、企業と熟練技術者、双方にメリットがあるのです。
一見すると人間の仕事を奪ってしまうように見えるスマートファクトリー化ですが、このような未来も想像できるのです。スマートファクトリーの4つ目のメリットは「人材活用」と言えます。
スマートファクトリー化のポイント
さまざまなメリットがあるスマートファクトリーですが、どのように実現できるものなのでしょうか? 工場のスマートファクトリー化は、以下のようなポイントを押さえながら進めていくとよいでしょう。
ポイント1.プランニングの徹底
まず、スマートファクトリーのプランニングの徹底です。そして、大枠が完成したところで、社内各部署との議論を行いましょう。特に現場の声をよく拾うことが大切です。工場全体を可視化して最適化することがスマートファクトリーのポイントなので、各部署の足並みがそろわないとスマートファクトリー化は頓挫する可能性が高くなります。
ポイント2.スモールスタートで実施
次に、できるだけスモールスタートを心がけましょう。工場全体の可視化や人工知能による判断などは簡単なタスクではなく、リスクを最小限に抑えつつ少しずつ規模を拡大するのが理想的です。スマートファクトリー化に必要な設備やシステムは近年価格が下がってきたとは言え、イニシャルコストがかかることは事実です。大規模な投資が無駄になってしまったということを避けるためにも、スモールスタートを心がける必要があります。
ポイント3.成果を正当に評価すること
スマートファクトリー化で得られた成果を正しく評価することも重要です。そのためには、客観的な評価が可能なように成果を数値化することが欠かせません。スマートファクトリー化の効果を明確にできれば、工場全体でさらなる推進がしやすくなるためです。また、得られた知見を部署内に溜め込むのではなく、生産システム全体に広げる努力が必要です。この努力をできるだけスピード感を持って、かつ継続的に行うことによって、スマートファクトリー化がスムーズに実現できるでしょう。
工場のスマートファクトリー化を支えるエンべデッドシステム
以上、スマートファクトリーの概要とメリット、導入に当たってのポイントを見てきました。
スマートファクトリーはIoTやAIの技術を最大限活用して、生産効率を劇的に上げる試みです。そして、特に日本の労働力不足の深刻化を考えれば、多くの製造業にとってスマートファクトリー化は必須の流れと言えるでしょう。
こうした状況を支えるのが、近年のエンベデッドシステム(組み込みシステム)やエッジデバイスの高機能化・低価格化です。これによって、装置コストを下げつつスマートファクトリー化のファーストステップを踏み出すことができます。製造装置メーカーにとっても新しい試みを低コストでトライすることができます。
新しい試みによって、製造現場の効率化を図り、検査工程の自動化や遠隔監視、予知保全などの実現によって生産性の向上を図ることで顧客満足度の向上が期待されるので、製造装置メーカーの大きなセールスポイントとなるでしょう。
エンベデッドシステムについての詳細は、「エンベデッドシステムとは―メリットや導入時のポイントを解説」をご覧ください。
エッジデバイスについての詳細は、「エッジデバイスとは?概要とエンベデッドシステムとの関係性について解説」をご覧ください。
リンクスでは、エンベデッドビジョンシステムを通じて工場のスマートファクトリー化を支援しています。スマートファクトリーについて、ご不明の点があればお気軽にご相談ください。