MIPIは通信インターフェースの一種として広く使われていますが、ほかの高速インターフェースと比べると知名度は高いとは言えません。しかし、使用されている場面では大きなメリットを持ち、高い性能を発揮します。MIPIとはどのような規格で、何について定義しているのか、規格の種類、特性やメリットなどをご紹介します。
MIPIとは
MIPIがどのような分野に対する規格なのか、意味や代表的なインターフェースなどを見てみましょう。また、なぜ知名度があまり高くないのか、その理由もご紹介します。
MIPIの意味
MIPIは、Mobile Industry Processor Interfaceの略で、日本語に直訳すると「モバイル業界におけるプロセッサーのインターフェース」となります。モバイル機器に内蔵されるプロセッサーのインターフェースを規定した規格がMIPIです。
MIPIが規定するのは、スマートフォンやタブレット、ラップトップなどのモバイルデバイス、ポータブルデバイス向けのインターフェースです。特に5G対応モバイルデバイスやIoT、コネクテッドカーにおいて、長期的に重要な役割を果たすことが期待されている高速インターフェース規格の一種です。
Intel、Nokia、Samsung、Motorola、TI、STなど、モバイル業界のリーディングカンパニーによって構成されるMIPI Allianceが2003年に設立され、2008年に規格が策定されました。デバイスに組み込まれた部品や構成要素を統合し、ハードウェアおよびソフトウェアインターフェースについて設計を簡素化して、普及を促進することを目的としています。
MIPI以外の代表的な高速インターフェース
MIPIのほかには、高速インターフェースとして次のようなものがあります。
- USB
- Thunderbolt
- HDMI
- DisplayPort
- SATA
- LVDS
MIPIが生まれた背景とあまり知られていない理由
上記に列挙した高速インターフェースと異なり、MIPIは一般での認知度が高くありません。
例えばUSBやHDMIなどは家庭用ゲーム機と周辺機器の接続にも使われるため、一般消費者にも広く知られています。しかし、MIPIは一般での認知度が高いとは言えず、それがどのような形状をしていてどういった特徴があるのか、即答できる方は少ないのではないでしょうか。
MIPIはモバイルに特化した規格としてスタートしたものです。主にSoC(システム・オン・チップ)とカメラ、またはSoCとディスプレイの間をつなぐ画像信号を伝達するために使われています。
多くの場合、SoCを搭載する機器はその機器単体で機能が完結しているものが多く、一体化しています。MIPIは、こういった一体化した機器の内部における接続に使用されるインターフェースです。機器に内蔵されているため、一般消費者が目にしたり手で触れたりする部分には露出していません。そのため、知名度が低いのは当然とも言えます。
しかし、今やスマートフォンやタブレットなど、SoCを活用した技術は不可欠なものとなっています。モバイルに関する技術は近年急速に開発が進みました。インターフェースについて規格を定めて標準化することで、部品やソフトウェアなどの構成に多様な選択肢が生まれ、普及と市場拡大につながっていきます。これらのモバイルデバイスで使用されるMIPIは、一般の目に触れることは少なくても、重要な存在となっていることは確実と言えるでしょう。
MIPIについての規格の種類
MIPIの規格には次のような種類があります。
物理層の規格
物理層の規格として次の4つがあります。
- M-PHY
高性能カメラやメモリ、チップ間アプリケーションなどを使用する場合の、性能重視の双方向パケット通信やネットワークで使われます。 - D-PHY
カメラまたはディスプレイ側に適用され、低速の単方向ストリーミングに使われます。 - C-PHY
D-PHYと同様にカメラまたはディスプレイ側に適用されますが、クロック方式や送信振幅が異なります。 - A-PHY
ADAS(先進運転支援システム)やADS(自動運転システム)、カメラやカーナビなど、ほかのサラウンドアプリケーションを含む自動車アプリケーションに適用されます。高速単方向データや、埋め込み双方向制御データなどの電力供給を1本のケーブルで提供できます。
通信方法の規格
通信方法の規格としては、次の2種類があります。
- CSI-2(Camera Serial Interface 2)
映像データの転送に特化したプロトコルで、単方向データ転送を行います。 - CCI(Camera Control Interface)
カメラモジュールの制御インターフェースで、双方向データ転送を行います。
パケットの規格
パケットの規格は次の2つがあります。
- Long Packet
画像データやエンベデッドデータの転送に使われます。 - Short Packet
フレームやライン、水平同期・垂直同期の信号の転送で使われます。
MIPIが適用されている場所
MIPIは次のような場所で用いられています。
スマートフォン・タブレット
スマートフォンはMIPI仕様の最大市場です。多くのスマートフォンの内部ではMIPI規格のインターフェースが使われ、今後も市場は拡大していくと考えられます。
タブレット端末も同様にMIPI仕様が使われています。
コンピューティングを行うラップトップ
エッジデバイスとしてコンピューティングを行うラップトップでも、MIPI仕様が多用されています。
IoTの次のステップとしてリアルタイム性を重視されるようになったことから、エッジコンピューティングが注目されています。クラウドに送信して行う処理とエッジデバイスで行う処理を分け、全体の高速化と動作の軽さを向上させるエッジコンピューティングにおいては、ラップトップの性能に加え、そこまでの通信回路、インターフェースも重要です。
ラップトップのほか、周辺機器として高解像度ディスプレイの電力接続や管理、カメラの接続などでも使われています。
エンベデッドビジョンシステム
SoC(システム・オン・チップ)を中心に構成されるエンベデッドビジョンシステムにも、MIPI仕様が活用されています。
エンベデッドシステム、ビジョンシステムについては以下の記事でそれぞれ詳しくご紹介しています。こちらもぜひご覧ください。
MIPIの特徴とメリット
MIPIの特徴とメリットは、モバイル設計に不可欠な要件と深く結び付いています。どういった特徴があるのか見ていきましょう。
低電力化によるバッテリー寿命の維持
MIPI仕様は複数の省電力モードを備えているため、バースト転送を行う高速モードから省電力状態への移行が容易です。狭帯域で動作する低速モード、電流リークを最小限に抑えスリープや起動状態への移行が高速なローパワーモードなどが選択できます。
これらの低電力化技術が実装可能なため、バッテリー消費を抑えることで充電回数を減らし、バッテリーの寿命を長期化させることが可能です。
モバイルにとってバッテリー寿命は大きな課題です。バッテリー寿命を長期化させることは、モバイル設計において大きなメリットとなります。
豊富な機能と拡張性に優れた広帯域幅
MIPIには特性の異なる複数の規格があり、さまざまな環境に対応可能です。そのため、既存のモバイル機器プラットフォームを再設計する必要がなく、容易にアップグレードできるという特徴があります。
また、幅広い帯域幅に対応するため、高い拡張性があります。これは、将来的な長期使用を可能にするメリットと言えます。
ノイズを抑えた低電磁干渉
モバイルデバイスは小さな筐体に多くの部品を詰め込むため、EMI(電磁波ノイズ)を抑えることも重要な課題です。
MIPIは低振幅オプションが選択でき、ノイズを抑制するための機能も充実しているため干渉が抑えられます。そのため、モバイル設計の自由度が大きくなります。
MIPI対応インターフェースは今後さらに浸透していく
MIPIについて、規格の概要や種類、特徴やメリットなどをご紹介しました。
MIPIは機器内部に内蔵されていて、一般消費者の目に触れることが少なく知名度は高くありませんが、多くの機器に採用されている高速インターフェースの規格です。モバイルデバイスは今後さらに高速化・小型化・多機能化が進み、IoTにおいてリアルタイム性が求められることで、通信機能を持つモバイルデバイスやポータブルデバイスの需要は伸びていくと考えられます。それに伴い、MIPIが採用された機器はさらに増え、市場拡大していくことが予想されます。
リンクスが提供するエンベデッドビジョンシステムにもMIPI仕様が使われ、小型で高速な内部通信を可能にしています。以下のリンクから、リンクスのエンベデッドビジョンシステムが持つさまざまなメリットについてご覧いただけます。