近年、労働力不足や業務効率化の課題に直面する製造業・物流業界において、AGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)の導入が急速に進んでいます。本記事では、AGVの基本的な概念から具体的な活用方法、導入のステップまでを詳しく解説します。
(AGVとAMRの違いについてはこちら▶「AGVとAMRの違いや特徴を徹底解説!搬送ロボットの種類とは」)
AGVとは何か?自動搬送ロボットの基本理解
AGVの定義と歴史
AGVは、誘導体などによって設定したガイドに従って、人による操作なしに自動で走行・搬送を行う車両システムです。1953年にアメリカのバレット・エレクトロニクス社が開発して以来、製造現場や物流施設での活用が広がってきました。
AGVの誘導方式
磁気誘導方式(磁気テープ/磁気ライン方式)
床に貼った磁気テープの上を、AGVがセンサーで読み取りながら走行する方式です。
導入が比較的簡単で低コストですが、配置の変更にはテープの貼り直しが必要なため、事前に走行ルートの入念な確認が必要です。倉庫や製造現場など、決まったルートの搬送に向いています。
光学誘導方式(ライン・トラッキング方式)
床に貼られた白線や黒線などのカラーラインを光学センサーで読み取って走行する方式です。他の方法と比較して比較的設置が容易で、テープやペンで描くことも可能です。しかし、光の反射に弱く、照明や汚れの影響を受けやすかったり、耐久性が弱かったりするため、注意が必要です。
ワイヤ誘導方式
床に埋設したワイヤーから出る電磁波を検知して走行する方式です。ガイドを埋設しているため、安定性や精度が高い一方、初期工事のコストがかかり、ガイドの変更も困難です。重工業や長期間運用を前提とした施設での搬送に向いています。
レーザー誘導方式
AGVに搭載されたレーザーセンサーで反射板(リフレクタ)の位置を読み取り、自己位置を三角測量で特定しながら走行する方式です。±数cm単位での精密な位置決めが可能ですが、反射板の設置が必要で、センサーや制御装置の価格が高いことが難点です。
QRコード方式(マーカー方式)
床や壁に貼ったQRコードを読み取って、現在地や進行方向を判定しながら走行する方式です。他の方式と比べると、比較的低コストかつ手軽な識別方式で、メンテンナンスもしやすいのが利点です。一方で、カメラの視界が悪かったり、マーカーが汚れたり剥がれたりすると走行が困難になります。屋外や暗所には不向きな方式です。
SLAM方式
LiDAR*1やカメラ、IMU*2などのセンサーを使い、AGVが自ら周囲環境の地図を作成(SLAM = Simultaneous Localization and Mapping)し、自己位置を把握しながら走行する方式です。ただし、SLAM方式のAGVは、一般的にAMR(Autonomous Mobile Robot)と呼ばれています。(AMRについて詳しく知りたい方は、こちらも併せてご覧ください。)SLAM方式のAGV(AMR)はセンサーや処理装置が高価なので初期投資が大きくなる場合がありますが、先に紹介した方式と違い、磁気テープなどのガイドが不要なため、レイアウト変更などにも柔軟に対応できるのが利点です。
*1 LiDARとは・・・「Light Detection and Ranging(光検出と測距)」の略で、レーザー光を使って物体の距離や形状を高精度に測定する技術です。3D地図作成や自動運転技術などで使用されています。
*2 IMUとは・・・「Inertial Measurement Unit(慣性計測装置)」の略で、物体の動きや姿勢、機体の傾きや加速度、急な動きや衝突を検出するために使用されます。LiDARが周囲環境の3D形状を測定するのに対し、IMUはロボット自体の動きや姿勢を把握するためのセンサーとして、重要な役割を果たしています。
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AGVの種類と特徴
コンベア型AGV
車両の上部にコンベアを搭載したAGVです。コンベア搭載のため、ラインでコンベアを設置せずに、搬送を自動化することが可能です。工程間搬送に特に適しています。
潜り込み型AGV(アンダーライドAGV)
車体が低く設計されており、荷物を載せた棚やカート、コンテナの下に潜り込んで持ち上げ、そのまま搬送することができます。倉庫内での効率的な荷物の移動や、製造業における工程間搬送などに最適です。
平ボディ型/重量級型AGV
平らな荷台を持ち、重量物の搬送が可能です。製造業における部品の工程間搬送、完成品の運搬に広く使用されています。
けん引型AGV(トーイングAGV)
複数の台車をけん引することができ、一度に大量の物資を搬送できます。自動車産業などの大規模な製造現場で活躍しています。
フォーク型AGV
AGF(Automated Guided Forklift)と呼ばれることもあります。フォークリフトのようにパレットの持ち上げが可能で、倉庫や物流センターで活躍しています。
AGVとAMRの違い
AGVが固定された経路を走行するのに対し、AMRは環境を認識し、自律的に経路を算出して移動できる点が大きな違いです。AGVは定められたガイドに沿って動くため、安定した作業に向いています。(AGVとAMRの違いについて、詳しく知りたい方はこちら▶「AGVとAMRの違いや特徴を徹底解説!搬送ロボットの種類とは」 )
なぜ今AGVが注目されているのか
少子高齢化による労働力不足、人件費の上昇、作業の安全性向上への要求、さらにはコロナ禍による非接触オペレーションの需要増加など、様々な社会的要因によりAGVへの注目が高まっています。
AGVのメリット
搬送に特化しており、導入が比較的容易
AGVは搬送作業に特化しており、定められたガイドを正確に走行するシンプルな設計です。床面の磁気テープなどに沿って移動するため、複雑な技術を必要とせず、導入目的が明確で既存の物流プロセスへの統合がスムーズです。
AMRに比べて安価で、導入しやすい
AGVはAMRと比較して機器本体の導入コストが低く、シンプルなセンサーとプログラムで動作するため機器本体の価格が抑えられています。また技術的に成熟しており、信頼性の高い製品が比較的安価に提供されているため、中小企業でも導入しやすい特徴があります。
また、AGVを自作することで更に価格を抑えることも可能です。
(AGVのメリット・デメリットについてもっと詳しく知りたい方はこちら▶「AGVとAMRの違いや特徴を徹底解説!搬送ロボットの種類とは」 )
労働環境と人手不足の改善
重量物の搬送や反復作業をAGVが担当することで、作業者の身体的負担を軽減できます。また、AGVはプログラムに従って常に同じ作業を繰り返すため、ヒューマンエラーを削減し、製品の誤搬送や落下などのトラブル、事故防止にもつながり、安心安全な労働環境づくりにも貢献できるでしょう。雇用側にとっても、人による搬送作業が不要になるため、作業員数の削減ができたり、一人当たりの負担が軽減することで離職率の低下に繋がるなど、人手不足への対策としても効果的です。さらに、単純作業を自動化できるので、労働者はより付加価値の高い作業に集中することができます。
AGVのデメリット
機器本体以外のコスト
ガイドの設置や制御システムの導入など、本体以外での初期投資が必要となります。また、既存の設備や作業環境の改修が必要になる場合もあるため、導入環境によってはコストが高くなる場合があります。
現場のレイアウトの見直しが必要
AGVは走行するためにガイドが必要なため、磁気テープを貼ったり、AGVの動線確保のために現場のレイアウトの見直しをする必要があります。
一方でAMRの場合はガイドが不要なため、レイアウトを変更せずに導入できる可能性があります。
AGVとAMRどちらを選べばいいかは、導入目的・導入環境・予算・柔軟性への対応レベルなどによって決まります。両者を比較したい、より詳しく知りたい方は「AGVとAMRの違いや特徴を徹底解説!搬送ロボットの種類とは」の記事も併せてご覧ください。
工場・倉庫におけるAGV活用の具体例
製造ラインでの工程間搬送
製造工程間の部品や半製品の搬送、完成品の保管場所への運搬など、製造ラインの効率化に大きく貢献します。人手での搬送が困難な重量物や危険物の運搬にも活用されています。
倉庫の在庫管理・出荷対応
入荷から保管、ピッキング、出荷までの一連の物流プロセスにおいて、AGVが活躍しています。特に大規模な物流センターでは、複数のAGVを連携させることで、効率的な在庫管理と迅速な出荷対応を実現しています。また、AGVと倉庫管理システム(WMS)を連携させることで、リアルタイムでの在庫把握と効率的な保管場所の割り当てが可能になり、在庫の自動棚卸しなども実現できます。
繁忙期における労働力補填
eコマースの拡大により物流量が増加する中、年末年始や夏季の繁忙期における人員確保が課題となっている物流現場では、AGVの導入によって安定した運営が可能になります。
業界別に見るAGVの導入実績
メルセデス・ベンツ(米国タスカルーサ工場)
メルセデス・ベンツの米国アラバマ州タスカルーサ工場では、KUKA社製の約100台のAGV(無人搬送車)が導入されています。これらのAGVは、主に車体製造工程におけるパーツの搬送を担っており、人手に頼らず高精度かつ安定した供給を可能にしています。ナビゲーションにはマグネットグリッド方式が採用されており、ガイドの変更や工場レイアウトの更新にも柔軟に対応できます。さらに、中央制御システムによって全てのAGVが統合管理されており、混雑や遅延を回避しながら効率的に搬送作業が行われます。これにより、安全性の向上はもちろん、生産ラインの柔軟性と稼働率も大幅に向上しました。
(引用元:https://www.kuka.com/ja-jp/業種/ソリューションデータベース/2021/02/自動車産業におけるagvソリューション)
日産自動車(栃木工場)
日産自動車の栃木工場では、OKI製の無線通信システム「SmartHop」が導入され、約80台のAGVがリアルタイムで制御・監視されています。このシステムは、従来の有線式に比べて通信の安定性と自由度が格段に高く、工場内の広範囲にわたる搬送業務を効率化しています。SmartHopは干渉に強いメッシュ型無線ネットワークを採用しており、障害物や電波干渉が多い工場環境でも安定した通信を確保します。導入後は、資材の供給タイミングが正確になり、製造工程の遅延が削減されたほか、AGVの稼働率が向上し、全体の生産性も底上げされました。また、無人化によって作業者の安全性も確保されています。
(引用元:https://www.oki.com/jp/dx/doc/2018/18vol-03.html)
Daifuku社
マテリアルハンドリングの大手、Daifuku(ダイフク)社は、無人搬送台車「FAV」を手がけています。「生産ラインへの材料供給」や「部材の工程間搬送」、「完成した商品を倉庫へ格納し」、逆に「商品を倉庫から出荷エリアに移動する」など、幅広く活躍しています。例えば食品メーカー6社の商品を共同物流・配送する福岡の物流センターでは、「FAV」を含む様々なマテハン機器を導入することで、大幅な省人化に成功しています。
(引用元:https://www.daifuku.com/jp/solution/casestudy/case007/)
まとめ
AGVは、製造業や物流業界が直面する人手不足や効率化の課題に対する有効なソリューションとして、ますます重要性を増しています。
今後のスマートファクトリー化やDX推進において、AGVは中核的な役割を果たすことが予想されます。自社の課題や目的を明確にし、適切な計画のもとで導入を進めることで、工場や倉庫の自動化による競争力強化を実現できるでしょう。
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