「エッジデバイス」という言葉をご存じでしょうか。近年出てきた言葉で、エッジコンピューティングの隆盛に伴って使われるようになりました。ここでは、エッジデバイスの言葉の意味を考えるとともに、エッジデバイスの主な用途である組み込みシステム(エンベデッドシステム)について解説します。
エッジデバイスとは?
エッジデバイスとは、IoTの分野で「末端(エッジ)」にある機器を指します。特にエッジコンピューティングの文脈では、エッジサーバーと考えてよいでしょう。
エッジコンピューティングは、ネットワークの末端にあるエッジサーバーがセンサーのような機器から送られてきたデータを処理し、最低限必要な情報だけ別のサーバーに送るという、分散処理の仕組みです。クラウドコンピューティングでは常にネットワークアクセスが必要なのに対して、エッジコンピューティングでは必要最低限しか行わず、システム全体の処理速度を上げることができるという特徴があります。
エッジコンピューティングについての詳細は、「エッジコンピューティングとは?活用メリットとデメリット、導入時のポイントを紹介」をご覧ください。
エッジデバイスとは、上記のエッジサーバーと機能は同じです。では、なぜ「エッジデバイス」と呼ばれるようになったのでしょうか?
サーバーというとコンピューター「システム」のことをイメージする人が多いのではないでしょうか。これに対して、デバイスは「部品」のことを指します。サーバーを構成する複数の要素が、言葉からイメージされる大がかりなものではなく、半導体技術の進歩によって驚くほど小型になったこと。これが、エッジサーバーが「部品」であるエッジデバイスとして扱われるようになった背景と考えられます。
エッジデバイスの活用例1:製品検査
小型で低価格、信頼性も十分なものとなったエッジデバイスは、産業分野でどのような用途に使用できるのでしょうか? エッジデバイスの具体例としてエンベデッドシステム(組み込みシステム)を見ていきましょう。
エンベデッドシステムについての詳細は、「エンベッドシステムとは―メリットや導入時のポイントを解説」をご覧ください。
まず挙げられるのが、製造業における製品の検査用途です。
産業用の組み込みシステム(エンベデッドシステム)には、検査、故障検知などの分野があります。そして、エッジデバイスに人工知能(AI)をのせた「エッジAI」を活用することで、これらの分野に対応することができます。
生産ラインでは、製品検査は必ず行われる必要があり、古くは人手によって行われていました。それが画像処理技術の発達により徐々に自動化が進められ、近年ではニューラルネットワークを活用した人工知能によるものが増えています。なお、これらの画像処理技術はマシンビジョンと呼ばれます。
マシンビジョンについての詳細は、「マシンビジョンとは―急速に普及する背景と導入によるメリット」をご覧ください。
現在ではエンベデッドシステムでマシンビジョンを構成できるようになりましたが、以前のハードウェアではニューラルネットワーク処理専用のボードを用意して、CPUと並列処理で動作させる必要がありました。そのため、画像処理システムの価格が高額になり。品質向上のための検査工程の数を増やすことが難しかったのです。さらに、画像処理システムを構成する部品の数が多くなり、信頼性が低いという課題もありました。
これに対して近年のエッジデバイスでは、CPU、ニューラルネットワーク処理、ネットワークアダプタなどがひとつのチップに集約されたものとなっています。これをSoC(システム・オン・チップ)と言います。さらに、マシンビジョン専用のエッジデバイスとして、これらに加えてイメージセンサーやレンズと一つのシステムとしてまとまっているものもあります。
SoC(システム・オン・チップ)についての詳細は、「システム・オン・チップ(SoC)とは―意味や用途、メリットなど」をご覧ください。
エンベデッドシステムでは機能の集積が行われた結果、信頼性が高く、価格が安くなります。このため、ひとつの生産システムで今までよりも多くの検査工程を行うことができるようになるのです。
また、高速化も図られており、高速で大容量の処理が要求されるニューラルネットワーク処理に関しても十分に対応することができます。さらに、構成要素の集約化が図られているために省電力化も実現可能です。
エッジデバイスの活用例2:セルフレジ
エンベデッドマシンビジョンシステムの活用例として、身近なところではセルフレジが実現しつつあります。
買い物かごのなかに商品を入れてレジカウンターへもっていくと、レジに設置されたエンベデッドマシンビジョンシステムが買い物かごの中の商品の色や形を認識し、清算を行うという仕組みです。エンベデッドビジョンシステムには画像認識のための人工知能が組み込まれています。
従来からこのようなシステム研究されてきましたが、認識の精度が照明などの外部の条件に左右されやすいという問題がありました。そのため、なかなか実用化が難しいという状態でした。
これに対して、近年のエンベデッドビジョンシステムは人工知能を搭載したことで、照明などの条件が変化した場合にも正確な読み取りを行うことができます。また、画像認識の処理速度が向上しており、より素早い清算が可能になっています。
エッジデバイスの活用例3:故障検知(予知保全)
もうひとつの活用例は、装置の故障検知です。
故障検知は、トラブルが発生しやすいと考えられる場所にセンサーを取り付け、振動の変化や音、画像などから故障の予兆を検知し、オペレーターに通知するように構成されます。このような故障検知は「予知保全」と呼ばれます。
この予知保全の分野は、かなり昔から研究が行われてきました。近年では製品検査と同様に人工知能によるものが主流です。このため、エッジデバイスに求められるものは製品検査と同様です。
予知保全の必要性は、近年特に高まっています。生産システムの稼働を維持するための人手が不足してきているからです。従来では熟練技術者の経験と勘に頼っていましたが、エッジデバイスによるエッジAIを普及させることでこれらの問題を解決できると考えられています。
エッジデバイスは価格が安く、信頼性も十分に備わっています。従来のエッジサーバーは高価だったため、最も故障の発生しやすい場所のみを導入の対象としていましたが、エッジデバイスではそれよりも多くの場所に導入することができるのです。
生産システムを進化させるエッジデバイス
以上、エッジデバイスと組み込みシステムについて述べました。
「インダストリー4.0」とも称されるように、生産の分野では近年大きな変革が起きています。人手による作業を自動化し効率化するという流れから一歩進んで、生産システムに人工知能を導入することで、単純作業だけではなく人が行っていた判断まで行わせる「知能化」が進められようとしています。本記事で紹介したように、低価格化・小型化が進んだエッジデバイスはこうした流れのなかで大きな存在感を持つものです。
エッジデバイスの活用例や具体的な導入についてお考えの際には、ぜひリンクスまでお気軽にお問い合わせください。