近年、IoTの活用が飛躍的に増加するとともに、エッジコンピューティングの分野にも注目が集まっています。エッジコンピューティングとは、より末端に近い場所でデータ処理を行う仕組みのことで、すべてのデータをクラウドサーバーに送らずに、分散して処理を行うことでさまざまなメリットを発揮します。ここでは、エッジコンピューティングの概要やメリット・デメリット、導入時のポイントに加えて、エンベデッドシステムとの関係についてもお伝えします。
エッジコンピューティングとは?
エッジコンピューティングとは、端末に近い場所で分散処理を行う仕組み、あるいはそうしたコンピューティングの概念のことです。
近年、仮想化技術の進歩により、インターネットを介して離れた場所にあるサーバーを利用するクラウドコンピューティングの活用が飛躍的に増えました。
物理サーバーを設置する手間が省けるクラウドコンピューティングは大変便利なものですが、課題もあります。クラウドサーバーへのアクセスは常にネットワークを介して行われるため、常時ネットワークに大きな負荷がかかり、ネットワーク速度が低下してしまうのです。
この課題を解決するには、全ての処理をクラウドサーバーに送信するのではなく、クラウドサーバーとは別にネットワークの末端(エッジ)に設けられたエッジサーバーで処理を行う仕組みが考えられます。これがエッジコンピューティングです。
エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングの課題を解決し、より効率的なネットワークを構築するものです。エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングと両立するネットワークモデルといえるでしょう。
なお、同じ「エッジ」を使った単語に「エッジデバイス」があります。この2つの単語の意味するところは、「エッジサーバー」がネットワークの末端で積極的な処理を行うのに対して、「エッジデバイス」は単にネットワークの末端につながれたデバイスという意味になります。
エッジデバイスについては、「エッジデバイスとは?概要とエンベデッドシステムとの関係性について解説」でも詳しく解説しています。ぜひご参照ください。
エッジコンピューティングのメリット
それでは、エッジコンピューティングの具体的なメリットを見ていきましょう。主に次の3点が挙げられます。
ネットワーク負荷の軽減・処理スピードの向上
エッジサーバーは、センサーのような物理的なデバイスとクラウドサーバーとの間に置かれ、大部分の処理を行います。つまり、エッジサーバーとクラウドサーバーとの間ではエッジサーバーで処理された最低限必要な情報のみがやりとりされることになります。そのため、ネットワークへの負荷が少なくなり、システム全体での処理スピードが向上します。このメリットは、スピードが要求される産業向けや自動車向けの組み込みシステムでは特に有利になります。
レイテンシの解消
エッジコンピューティングではエッジサーバーでほとんどの処理を行います。ネットワークに接続されたクラウドサーバーには、最低限のデータのみが送信されます。エッジサーバーでデータ処理を行うことにより、ネットワークを介したデバイスとクラウドサーバーとの間のやりとりが少なくなるため、データ処理にかかる遅延を軽減でき、レイテンシ(通信の遅延)の解消にもつながります。
セキュリティリスクの低減
さらに、外部のネットワークを介さずにエッジサーバーの中でデータ処理を行うため、データ漏えいリスクを最小限に抑えることができ、セキュリティリスクを低減できるというメリットもあります。クラウドコンピューティングではクラウドサーバーのセキュリティが破られると、蓄積されたデータすべてが流出する可能性があります。エッジコンピューティングではデータが分散されて蓄積されるので1つのエッジサーバーのセキュリティが破られても、データ全体が流出する可能性はクラウドコンピューティングよりも低くなります。
エッジコンピューティングのデメリット
一方、エッジコンピューティングにもデメリットはあります。
コストの増加
エッジコンピューティングのシステムはクラウドサーバーのほかにエッジサーバーが複数置かれ、この間をネットワークでつないで構成されます。つまり、ひとつのシステムの中に複数のサーバーが存在することになるため、システム全体の構成が複雑になりがちです。その結果、システム全体のコストも高くなる傾向があります。
データ消失リスクの発生
エッジコンピューティングでは、エッジサーバーで処理したデータのうち必要なデータのみをクラウドサーバーへ転送し、不要なデータは削除されてしまう場合が多くあります。エッジサーバーの記憶容量に限界があるためです。このため、本当は必要であったデータが消失してしまうというリスクがあります。
エッジコンピューティング導入時のポイント
それでは、エッジコンピューティングを導入する際にはどのような点に気を付ければよいのでしょうか。産業分野でエッジコンピューティングを導入することを念頭に、次のようなポイントが考えられます。
可用性・信頼性の高いハードウェアの導入
生産ラインや製造装置は比較的高額なものが多いです。例えば、半導体製造分野でのリソグラフィー装置は、最先端のものになると1台100億円を超えることもあります。そのため、できるだけ早期に設備投資の回収を行わなければならず、稼働率を上げることが要求されます。したがって、できるだけ止まらずに動き続けること(可用性)、できるだけ壊れずに動き続けること(信頼性)が重要です。
同様に、エッジコンピューティングを導入するにあたっても、使われる機器の可用性・信頼性の高さが重要になります。
人工知能への対応
エッジサーバーやエッジデバイスで人工知能(AI)を動かすことを「エッジAI」と言います。最近では、ワンボードのエッジデバイスでエッジAIが実現できるようになってきています。
エッジAIを導入することによって、製品検査や故障予知など従来人手に頼っていた作業を、判断まで含めて機械に任せることができるようになります。そして、こうしたエッジAIの活用によって、非常に効率の高い生産システムを構築することが可能です。このため、エッジコンピューティングを導入する際には人工知能をサポートしているかどうかも重要になります。
SoC(システム・オン・チップ)とエンベデッドシステムの活用
エッジコンピューティングで使われるハードウェアは、できれば半導体の中にワンチップとして集約した方が、可用性・信頼性が向上し小型化が可能となり、コストも低減できます。
そこで、ネットワークコントローラや、CPU、信号処理部を1枚のLSI(大規模集積回路)に集約します。半導体技術の進歩によって、こうしたことも十分可能になりつつあるのですが、これをSoC(システム・オン・チップ)と言います。今まで別々の汎用(はんよう)チップを外部でつないでひとつのシステムを構成したものが、現在ではLSIを作る段階から半導体メーカーに注文することが容易になっているのです。
実際に、最近では、カメラ、レンズ、CPU、ニューラルネットワーク処理部、ネットワークコントローラを1枚のボードにして、マシンビジョン用のエッジサーバーとして販売しているものがあります。
エッジサーバーをSoCで構築されたエンベデッドシステムとすることで、可用性・信頼性を維持しつつ、より低コストでエッジコンピューティングを実現できるのです。
なお、SoCとよく混同されるものにシステムLSIがあります。システムLSIは、SoCと同様にシステムを集積したもので、実際に同じ意味で使われることもあります。ただし、SoC、すなわち「System on a Chip」が1枚のチップ(シリコンダイ)を指しているのに対して、システムLSIの場合は1枚のシリコンダイとは限りません。具体的には、「SiP(System in Package)」と言って、複数のシリコンダイを1つのパッケージにしてシステムを実現するものもあるのです。ここから、システムLSIは「SoC」と「SiP」を含んだものと考えればよいでしょう。
エンベデッドシステムについての詳細は、「エンベデッドシステムとは―メリットや導入時のポイントを解説」をご覧ください。
エッジコンピューティングは可用性・信頼性が重要
以上、エッジコンピューティングについて述べました。
近年のエッジサーバーはワンボードの中に必要なハードウェアがすべて組み込まれており、なおかつ十分な信頼性を確保できるようになってきています。つまり、可用性・信頼性が高く効率的なエッジコンピューティングが可能な状況になってきているのです。
リンクスでは、マシンビジョンによってさまざまな課題を解決するお手伝いをしており、この中でエッジコンピューティングも活用しています。エッジコンピューティングについても、お気軽にご相談ください。