エンベデッドシステム

エンベデッドシステムとは―メリットや導入時のポイントを解説

従来からエンベデッドシステムは多くの機器に内蔵され、小型化と高性能化に役立ってきました。昨今、そこに画像認識の特性を組み合わせたエンベデッドビジョンシステムが注目され、今後活用されることが期待されています。ここでは、エンベデッドシステムの特徴と期待される理由、活用事例、導入時のポイントなどをご紹介します。

エンベデッドシステムの概要とメリット

エンベデッドシステムはあらゆる分野の製品に使われています。エンベデッドシステムがどういったもので、どのようなメリットをもたらしているのかということから見てみましょう。

エンベデッドシステムとは

エンベデッドシステムは、組み込みシステムとも言われるコンピューターシステムの一種です。家電や産業機器に内蔵され、その機器に求められる機能に対し限定的かつ専門的なコンピューティングを行います。

例えば家電では、冷蔵庫にもエンベデッドシステムが内蔵されています。冷蔵庫は庫内の温度が一定温度まで上昇すると冷却装置を運転させ、一定温度まで下がると停止します。これはセンサーによって庫内の温度を検知し、決められた温度の範囲内を保つように設計されているのです。さらに最新の冷蔵庫では、扉の開閉状態を検知したり、湿度管理機能も搭載されていたりします。こういった制御を行っているのがエンベデッドシステムです。

また、自動車に搭載されているカーナビは、より複雑な制御が必要です。車速やGPSの情報をもとに現在地と目的地までの最適なルートを割り出し、そこから外れた場合にはルートの修正も行います。このような複雑な制御は、冷蔵庫の場合よりも演算能力の高いコンピューターが必要です。

しかし、一般的なカーナビには温度管理の制御は求められません。カーナビに内蔵されるエンベデッドシステムは道案内やそれに関する情報に特化したもので、冷蔵庫に求められるエンベデッドシステムの機能とはまた別のものです。

このように、エンベデッドシステムは特定の用途において目的とする機能に特化したコンピューティングを行うよう設計されます。ここが、汎用(はんよう)的なコンピューティングを行うPCやPLCとは大きく異なる点です。

エンベデッドシステムのメリット

エンベデッドシステムを使うことで、大きく3つのメリットがあります。

  • 生産コストを抑えられる

エンベデッドシステムは特定の目的のために限定的な機能のみを必要とします。広い範囲をカバーするためにさまざまな機能を搭載する必要がないため、低コストで製造できます。

  • 高機能を実現できる

同じ予算やリードタイムで開発・製造した場合、未知の用途も想定した汎用的な機能に比べ、特定用途に特化した限定的な機能にリソースを集中することができます。その結果、求められる機能において高機能にすることが可能なのです。

  • コンパクトにできる

機能を限定できるため、必要最小限のサイズで設計でき、コンパクトなスペースに内蔵することが可能になります。これにより、機器全体のサイズを小さくすることが可能なだけでなく、可動部に内蔵した場合のモーメントや慣性を小さくすることも可能です。

エンベデッドシステムの歴史と進化するエンベデッドシステム

近年、エンベデッドシステムの必要性は以前にも増して大きくなり、それに合わせエンベデッドシステムも進化しています。どのような理由からエンベデッドシステムの必要性が高まっているのでしょうか。

エンベデッドシステムが必要とされる背景

エンベデッドシステムの進化は、データの演算や変換などの処理を行うマイクロプロセッサーの進化とともに進んできたと言えます。

1980年代にマイクロプロセッサーの高性能化と低価格化が進み、さまざまな場面で使えるようになりました。それまでの機器は手動操作を行うか、外部のコンピューターに接続することでしか制御ができないのが常識でした。しかし、マイクロプロセッサーやメモリを内蔵し、その機器の内部で制御が完結できるようになったのです。これがエンベデッドシステムの普及の始まりです。

その後、マイクロプロセッサーの高性能化も進み、機器に求められる機能も多様になったことからエンベデッドシステムも進化してきました。

2010年代後半、IoTの普及によってエンベデッドシステムの必要性は一段と高まります。あらゆるモノがインターネットに接続されるということは、それによって膨大な情報を得られるということを意味します。クラウド技術の普及とともにその問題点も明確になり、分散型処理の重要性も理解されるようになりました。すべての情報をクラウドに集中させるのではなく、機器内部で完結できることでリアルタイム性やコスト面など、多くのメリットが生まれます。そういった意味で、機器に組み込んで処理や制御を行うエンベデッドシステムは、さらに必要性が高くなりました。

また、AIの実用化により人が手助けしなくても機械が自ら判断を行えるようになりました。簡易なAIであればエンベデッドシステムに内蔵でき、複雑な処理を行う場合も外部のコンピューターとエンベデッドシステムを接続することで人の手を使わずに処理が可能になっています。

このように、センシング技術の進化、IoTの普及、AIの実用化などが背景にあり、エンベデッドシステムの有用性が高くなると同時に、必要とされる場面も増えていると言えます。

なお、分散処理を行う「エッジコンピューティング」については、「エッジコンピューティングとは?活用メリットとデメリット、導入時のポイントを紹介」でも詳しく解説しています。ぜひご参照ください。

今注目されているエンベデッドシステムの技術

IoTの普及とAIの実用化は、エンベデッドシステムの必要性を高めるのと同時に、多様化も促しました。そのひとつが、カメラデバイスによる画像や映像の処理を行うエンベデッドビジョンシステムです。

IoTにより、常に更新される大量の情報を離れた場所へ送ることが可能になりました。これにより、多くの情報を得られるカメラデバイスを内包したエンベデッドビジョンシステムの注目度も高まったと言えます。

また、従来は画像や光学センサーによって得られる情報に対して判断を下す部分は人が行わなければなりませんでした。しかし、AIの進化、特にディープラーニングの実用化が、機械による判断を可能にしました。このように機械が人の代わりに検査作業を行えるようになったという点も、エンベデッドビジョンシステムが注目される理由のひとつです。

このような自動化が進むなかで、次の段階として求められるのが、情報の取得と判断におけるリアルタイム性です。クラウドや離れた場所にあるコンピューターまで送受信して処理を行う場合、通信トラフィックの混雑によってタイムラグが発生します。しかし、その場で処理が可能なエンベデッドビジョンシステムは瞬時に処理が可能で、高いリアルタイム性があります。

作業の高速化だけでなく、瞬時の判断による安全性が重要な処理においても有用性が高く、多くの課題を解決する技術として注目されています。

エンベデッドシステムが活躍する分野

進化したエンベデッドシステムは、これまで不可能だったことを可能にし、さまざまな分野で活用されています。

自動運転技術の安全性をさらに高める機能

自動運転技術は、世界が注目し開発が進む分野です。自動車は当然ながら移動するモノであるため、外部との有線での接続は不可能です。そこで、自動運転技術でのコンピューター処理は、移動無線通信による外部との接続、または自動車に搭載されるエンベデッドシステムということになります。

自動運転技術では事故が発生しないよう制御されるのは前提ですが、万が一のための安全機能も重要です。事故発生時、エアバッグが作動すると同時に緊急通報サービスに接続、GPSによって位置情報も送信する機能が開発されています。

このエンベデッドシステムはすでに実用化されていますが、自動運転技術においてもさらに安全性を高めるものとして注目されています。

米1,000粒を十数秒で判定し検査

米の流通では、農産物検査法に基づいた項目の検査が義務となっています。この検査は検査員の目視によって行われてきましたが、労働力不足や人的コストが課題となり自動化が求められるようになりました。

従来は、機械による検査処理は時間がかかるうえに精度も高くなく、細かい判定は不可能でした。しかし、最新のエンベデッドビジョンシステムが内蔵された検査装置では、米1,000粒を十数秒で検査することが可能になっています。また、一粒ごとの視覚的な情報表示と機械による判定も可能です。

画像から血管を抽出しそれぞれの支流の太さを測定

医療分野でもエンベデッドシステムの内蔵された機器が活用されています。

血管を撮影した画像に対し、エンベッドシステムによって血管部分を抽出し、高精度に計測することが可能です。血管は、複雑な曲線が重なり合っていることもあり判別が困難なのですが、これを太さによって色分けして表示することが可能です。

このような複雑な処理も、エンベデッドビジョンシステムの進化により可能になっています。

エンベデッドシステム導入時のポイント

エンベデッドシステムの導入時には、次のようなポイントが重要となります。

システム全体を考慮した部品選定と設計を行う

エンベデッドシステムはいくつかの部品から構成されるものも少なくありませんが、それらのバランスを考えることが重要です。

例えば、カメラデバイスを含むエンベデッドビジョンシステムの場合、カメラだけが高性能であっても、プロセッサーの能力を超える画像処理はできません。

用途に必要な条件を整理し、要件を満たす設計を行い、全体像を明確にしたうえで部品を選定しましょう。

確かな技術を持つパートナーに開発を一任する

エンベデッドシステムを構成する各重要部分が個別に開発されることもありますが、これらが連動するシステムであるという点は忘れるべきではありません。

各部分でのテストでは順調な作動をしたとしても、システムとして動かしたときに問題が発生することがあります。システムとしての開発と運用に関して確かな技術を持つパートナーに一任するのがおすすめです。

システムの性能と機能を把握して使う

システムを構成する重要部分には、個別に処理能力が与えられている場合もあり、それらを有効に使わなければ一部に負荷が集中することも考えられます。これはシステムの巨大化やコスト増大の原因にもなります。

処理システムの性能や必要な機能、ソフトウェアやアルゴリズムの特性を把握したうえで、プロセッサーに適合しているかを判断する必要があります。

長期に持続可能な構成条件を考える

エンベデッドシステムの設計では、システムを構成する部品が長期的に入手可能かどうかという点も考慮しましょう。

システム設計の時点では機能やコストに目が行きがちですが、部品が安定して入手できなくなった場合、再設計が必要となり追加のコストが発生することもあります。

長期的に入手可能な構成条件を考え、標準化されたプロトコルやインターフェースを使用することでシステムの持続可能性が高くなります。

理論値と実測値の差を考慮して設計を進める

エンベデッドシステムを構成する各部単体の理論上の性能は、システムとして連動させたときには発揮されないものとして考えましょう。システムを起動して初めて性能不足に気付くこともあります。

こういった理論値と実測値の性能差を考慮し、開発前のPoC(Proof of Concept:概念実証)を入念に行って設計を進めることが重要です。

エンベデッドシステムはあらゆる分野で活躍が期待される

エンベデッドシステムの概要とメリット、エンベデッドビジョンシステムの必要性、導入事例や導入時のポイントなどをご紹介しました。IoTが当たり前となりAIの導入が進むのと同時に、今後さらに多くの分野においてエンベデッドシステムの導入も進んでいくと考えられます。

リンクスでは、エンベデッドビジョンシステムのソリューションをご用意し、お客様の課題解決に向けてお手伝いさせていただきます。用途や要件、使用環境に合わせたエンベデッドビジョンシステムの設計・選定をいたしますのでご相談ください。

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