日本ルースト株式会社様は、生物・生態系分野でAI開発に挑むスタートアップ企業です。AI技術を活用した社会課題の解決を目指し、その第一歩として「地鶏の性判定AI」の事業化に取り組まれています。このAI開発には、HALCONディープラーニングの画像分類技術が採用されています。本事例では、熟練の鑑別師に匹敵する精度を目指した日本ルースト様の挑戦とその成果をご紹介します。
鑑別師の技を再現するための要件
熟練の雌雄鑑別師による判定精度は 98%以上 とされます。これは長年の経験と高度な技能に支えられたものであり、非常に高精度ですが、技術継承の難しさや、鑑別師人材の高齢化による人材確保の困難 が大きな課題となっています。
日本ルースト株式会社は、この課題に対し AIによる性判定技術 で解決を図っています。初期検証では他社のツールを用いて正答率は92.5%と一定の成果があったものの、熟練鑑別師の精度には届きませんでした。実用化には、撮像環境の最適化、判定アルゴリズムの工夫、学習データの拡充、そして最適な学習ツールの選択が必要であることが明らかになりました。
肛門鑑別ではオスにある小さな生殖突起により判定をおこないます
HALCONディープラーニングにより鑑別師の熟練技術に匹敵する判定精度を実現
日本ルースト株式会社は、従来の課題を解決するために HALCON のディープラーニング機能を採用し、同時に撮像環境や判定アルゴリズムなど様々な改良を重ねました。
その結果、評価環境下において99%以上の判定精度を達成。熟練鑑別師を上回る精度を実現することができました。実運用では96.5%の精度にとどまり、目標である98%にはわずかに届かなかったものの、実用化に向けた確かな見通しを得ることができ、HALCONは有力な画像判定ツールとして評価され、今後の展開においても活用が期待されています。
マイクロスコープで撮像したヒヨコの肛門画像から雌雄を判定
HALCON選定の理由
①高速処理による運用の最適化
今回行われた判定方法の改良では、1枚の画像だけでは曖昧な判定になる場合があるため、1羽あたり10枚の画像を撮像し、それぞれの結果からオスらしさとメスらしさをスコア化・グラフ表示することで、判定の信頼性を向上させています。
もちろん、画像枚数が増えれば処理時間も増加しますが、HALCONによる最適化により1枚あたり0.5秒未満、合計で5秒以内という高速処理を実現しました。これは鑑別師と同等の速度での自動判定を意味し、HALCONの高速性が高精度を維持するための重要な要素となっていることを示しています。
AIによる肛門鑑別を示すモニター画像 (総務省「地域社会DXナビ」から転載)
②産業用に様々な開発環境に適合
ディープラーニング判定には、NVIDIA Jetson AGX Orinをローカルサーバーとして採用。マイクロスコープで撮像した画像をLAN経由でローカルサーバーへ送信し、判定結果をクライアント装置でリアルタイムに表示する仕組みとなっています。
これにより、コスト低減・運用の簡便性・高速処理という複数の要件を同時に満たすことができました。HALCONはLinux ARM環境にも対応しており、Jetson上でも高いパフォーマンスを発揮することが選定の決め手の一つになっています。

NVIDIA Jetson AGX Orinを用いた開発環境

クライアント装置で処理結果を表示
今後の展望とHALCONの可能性
今回の検証結果により、実用化の目途が立ったことから、今後は全国の都道府県での導入展開を予定。
まずは学習用の画像を取得する装置を高知県畜産試験場、熊本県農業研究センター、広島大学の3か所に設置し、2025年度中に3鶏種3,000羽から9万枚の学習画像を集め各鶏種に応じたAIモデルを作成、2026年度にはAIモデルをクラウドから利用できるように計画を進めています。
また、国内だけでなく、インドやネパールなど、雌雄鑑別師が不足する海外市場での活用も視野に入れ、グローバル展開を見据えた開発が進められています。
日本ルースト様では、今回の研究の成果を活かし、赤潮の原因プランクトン、牛の受精卵の品質判定、マダニを媒介するネズミの検出といった新たな課題解決にも取り組まれています。
近年、人件費の高騰に加え、熟練人材そのものが確保できないという課題は、あらゆる業界で深刻化しています。“人の目”を再現する技術として、ディープラーニングと画像処理は今後さらに不可欠な存在となるでしょう。AI判定を実用レベルに引き上げるには、精度や速度だけでなく、ルールベースの併用や開発効率、様々な開発環境への適用などが必要なことが明らかになりました。HALCONはこれらの機能を備えており、より高度で困難な課題にも挑戦できるツールです。