システム・オン・チップは、スマートフォンに内蔵されていることでも知られていますが、エンベデッドシステム(組み込みシステム)の構成要素としても広く使われています。限られたスペースに多機能を詰め込んだシステム・オン・チップは、どういった用途や環境で活躍し、どういった設計を行う場合に適しているのでしょうか。ここでは、システム・オン・チップの概要やメリット、課題とその解決策、広がりを見せる用途などについてご紹介します。
システム・オン・チップ(SoC)とは
システム・オン・チップはさまざまな場所で使われるようになり、SoCと略した表現も当然のように使われるほど浸透しています。
現代の技術にとって欠かせないものとなったシステム・オン・チップについて、詳しく見ていきましょう。
システム・オン・チップの概要
半導体チップは、ひとつのチップにひとつの機能というのが一般的ですが、複数の半導体チップを基盤に集合・積載して統合することで、さまざまな機能を発揮することができます。これが集積回路(IC)で、その密度をさらに高めたものが大規模集積回路(LSI)です。
このように、従来の集積回路は複数のチップを基盤上で集合させることにより複雑な機能を持たせていました。しかし、ひとつのチップでさまざまな機能をこなせるものが登場しています。それが、システム・オン・チップ(SoC)です。システム・オン・チップはひとつのチップで多機能という点が、従来の集積回路と大きく異なる点です。
「どちらもチップを使ったシステムでは?」と思う方もいるかも知れません。本来、システム・オン・チップは英語で「System on a Chip」と表記し、「ひとつのチップ上のシステム」という意味を表します。しかし、日本語ではひとつを意味する「a」を表す文化がなく、その部分は省略されることが多いため「システム・オン・チップ」と表現されます。そのため、少々意味が分かりにくく混乱を招く場合もありますが、「ひとつのチップで」という部分を覚えておけば問題ないでしょう。
また、システム・オン・チップには、PCに搭載されるCPU(Central Processing Unit)に近い見た目をしているものもあります。そのため、システム・オン・チップとCPUが混同されることもありますが、システム・オン・チップにはCPUの機能を果たすプロセッサも含まれています。
目的とする機能や搭載する装置によって構成は変わりますが、システム・オン・チップは一般的に、プロセッサを核として構成されます。これにコントローラ回路やメモリを統合し、複雑な制御も行える機能を持たせています。
「小さく」「速く」-SoCに至るまでの歴史
半導体の進化の歴史は、「小さく」「速く」をひたすら追求してきたと言えます。1950年代にICが発明され、1960年から1970年代中盤にかけて電卓用ICやメインフレーム用ICが次々と開発されました。1970年代から1980年代にかけてはDRAMや汎用(はんよう)MPUの開発が進み、ミニコンやワークステーションが使われるようになります。
1990年代からは、いよいよ現代につながるOS上での操作を基準とするPCの使い方が主流となり、MPUや周辺チップセットの開発が進みました。2000年代からはゲーム機のポータブル化や家電の高性能化が進み、PCの普及と多様化に合わせて進化を続け、専用システム向けのLSI、ASIC(特定用途向けLSI)が登場します。さらに開発が進み、回路設計の高度化とともに集積度も高くなっていきました。
一方で、複数の集積回路を組み合わせてシステムを実現するのではなく、チップ上に回路を組み込みシステムとして動かす方法についても開発が進みました。これまでの半導体の進化の歴史における、「小さく」「速く」を突き詰めた結果、別のアプローチから生まれたシステムと言えます。
このように、1つのチップに機能を詰め込み「小さく」「速く」を実現したものが、システム・オン・チップです。
2010年ごろには、システム・オン・チップの登場によって通信機器や情報端末にも大きな変化が訪れます。スマートフォンやタブレットが普及し、さらに小型で高速処理であることが求められるようになりました。
システム・オン・チップはもはや、先進技術を駆使した産業機器から日常で使われる家電まで、あらゆるものに搭載され、社会になくてはならないものとなっています。半導体技術はシステム・オン・チップ時代に突入したと言われるほど、さまざまなものがシステム・オン・チップを基準として設計されています。
システム・オン・チップのメリット
このように、半導体技術における集大成とも言えるのがシステム・オン・チップです。ひとつのチップに機能を詰め込むことによって、どのようなメリットにつながるのでしょうか。
小型化・軽量化
あらゆるものが小型化し、ポータブル性を高めることが求められています。今や外部から情報を得られるインターネットに接続されたコンピューターさえ、スマートフォンという形で手のひらに収まっています。
こうした、小型化と軽量化にとって、システム・オン・チップはなくてはならないものとなっています。
低コスト化
LSIやICでは、いくつもの半導体チップを使用しますが、システム・オン・チップは半導体チップがひとつだけのため、部品コストと製造コストを低減できます。
動作の高速化
システム・オン・チップはひとつのチップの内部でシステムが構成されるため、集積回路のように基盤上で構成されるシステムと異なり、配線が必要ありません。信号の送受信は配線距離が長ければそれだけ時間がかかるため、チップ間の配線がないシステム・オン・チップでは高速化が可能です。
部品点数の削減
システム・オン・チップは部品点数が少なく、設計の簡易化、製造工程での部品管理削減、工数削減など、さまざまな面で手間を減らすことができます。
省電力化
半導体に省電力機構を組み込む場合、使用していない回路の電源を遮断し省電力を図る方法が主流となっています。ICではチップそれぞれに回路の電源管理をしなければなりません。しかし、システム・オン・チップでは複数のCPUコアを回路ブロックとして扱い電源管理を行うことで、システム全体として省電力化を考えることができます。それにより電力効率も向上させることが容易になります。
システム・オン・チップの課題と解決策
一方で、用途や使用条件によっては課題となる部分もあります。
開発リードタイムの長期化
システム・オン・チップは、ひとつのチップに多機能を詰め込む必要があるため、実装する機能に対する回路設計や製品化には時間がかかります。
開発リードタイムが長期化しても、可能な限り手戻りがなく直線的な開発ができるよう、機器開発側と半導体開発側で緊密な協力・連携が必要となります。
開発コストの増大
システム・オン・チップはひとつのチップに多機能を詰め込むという性質上、設計から製造まで工程は煩雑になりがちで、開発コストが増大することも少なくありません。
ただし、同じ仕様を大量生産する場合は開発費が利益に細分化されるため、この課題は解消されます。詰め込む機能と市場投入量のバランスが必要になります。
部分的な仕様変更が困難
システム・オン・チップはベンダーに製造を依頼するので、仕様変更にはベンダーへの修正依頼が必要になります。頻繁な変更を必要とすることが予想されるような用途には向いていません。要件を絞り込み頻繁な仕様変更は必要ないような環境でシステム・オン・チップを効率的に使用することを考えるといいでしょう。
拡張性に乏しい
システム・オン・チップは、一度完成すると部分的な部品交換はできません。用途は、構成したシステムが対応できる範囲内のことに限られます。こういった面から、システム・オン・チップは限定的な目的のために使用する場合に適しています。
先進テクノロジーとSoCの融合
このような課題もあるシステム・オン・チップですが、小型であることや限定的な機能に対して特化する場合にはメリットが圧倒的に大きいのも事実です。
そういった限定的な機能に特化した使い方として代表的なのが、エンベデッドシステムとしての使用です。エンベデッドシステムは、まさに限定的な用途に絞って組み込むものです。そのため、あとからの汎用的な拡張性は重要視する必要がありません。
さまざまな分野でエンベデッドシステムは使われていますが、そのなかでも注目されているのが、画像や映像の認識に特化したエンベデッドビジョンシステムです。小型カメラをシステム・オン・チップへと接続し、産業機器に組み込むことで、さまざまな作業の自動化・高精度化を可能にすることができ、幅広い分野で普及が進んでいます。
エンベデッドシステム、エンベデッドビジョンシステムについての詳細は、「エンベデッドシステムとは―メリットや導入時のポイントを解説」をご覧ください。
システム・オン・チップは、IoTやAIなどの技術と組み合わせることで、さらにメリットが大きくなります。
IoTではあらゆる機器にセンサーを取り付けますが、そこで得られた情報を処理して再び機器に指令を与える必要があります。このとき、半導体チップの小型化・軽量化は機器に制御機能を搭載するうえで有利です。
また、AIによる判断の自動化を組み合わせることで、画像認識から判別、指令、動作といった一連の機械の動きをシンプルな構成で自動化することが可能になります。
システム・オン・チップは、ほかの要素技術とも親和性が高く、組み合わせによって多様な効率化を実現できる可能性を持っています。
システム・オン・チップの普及によりシステム設計の重要性がアップ
今後、システム・オン・チップはさらに多くの分野、多くの機器での活用が予想されます。小型で軽量、省電力という特徴は、日常用品から産業機器まで広い分野でのニーズにも適合しています。しかし、機能が限定されるため、仕様変更が容易ではないという側面から、システム設計の重要度はより高いものとなっていくでしょう。また、限定的な機能に特化していることから、エンベデッドシステムとしての活用が大きく伸びていくのではないでしょうか。
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