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画像処理アプリケーションを自社開発する方法は?一般的な流れとおすすめの画像処理ソフトを紹介

2025.07.08

画像処理

製造業のデジタル化や品質管理の高度化に伴い、画像処理技術への需要が急速に高まっています。市販の画像処理ソフトでは対応できない独自の要件を満たすため、自社開発を検討する企業も増加傾向にあります。本記事では、画像処理アプリケーション開発の基礎から、画像処理開発ツールを活用した効率的な開発手法まで、実践的な開発プロセスを詳しく解説します。

画像処理アプリケーション開発の基礎知識

画像処理の基本概念と技術

画像処理とは、デジタル画像データに対して電子工学的・情報工学的な処理を施し、目的に応じた情報抽出や画像変換を行う技術です。基本的な処理には、二値化*1エッジ検出*2ノイズ除去*3フィルタリング*4などがあり、これらを組み合わせていくことで複雑な画像解析が可能になります。
また人間があらかじめ設定したしきい値を元にOK/NGの判定を行うルールベースの手法に加えて、現代の画像処理ではディープラーニング技術が重要な役割を果たしており、ディープラーニング機能を搭載した開発環境も登場しています。

*1 二値化・・・画像処理や信号処理で使われる基本的な処理手法で、連続的な値(グレースケールやカラー)を2つの値(通常は0と1、または黒と白)に変換すること。
*2エッジ検出・・・画像内で、明度が急激に変化する部分(エッジ)を見つけ出す画像処理技術。物体の輪郭や境界線を抽出するのに使われる。
*3ノイズ除去・・・画像や信号から不要な雑音(ノイズ)を取り除く処理のこと。画像では、本来の情報を妨げるランダムな点やざらつきを除去し、画質を改善する。
*4フィルタリング・・・信号や画像から特定の周波数成分を抽出したり除去したりする処理のこと。不要な成分を取り除いたり、必要な特徴を強調したりするために使われる。

適切な画像処理ソフトウェアの選び方

画像処理アプリケーションの開発には、まずは適切な画像処理ソフトウェアの選択が重要です。自身にあった最適なものを選択するためには、まずは画像処理の目的と具体的な要件を明確にした上で、開発者のスキルレベルや、画像処理ソフトウェアの学習にどの程度時間を割けるか等を考慮することが必要です。
また「無償のソフトウェアを利用するか」「有償のソフトウェアを利用するか」、ということも考えなくてはなりません。無償のものはコストがかからず手軽に始めることができますが、有償のものには高機能で使いやすい開発ツールに加え、ベンダーからの専門的な技術サポートを受けることが出来るという大きな利点もあります。
よく利用されている無償の画像処理ソフトウェアには「OpenCV」、「PIL (Pillow)」、「scikit-image」、「ImageJ / Fiji」などがあり、有償の画像処理ソフトウェアには「HALCON(MVTec Software GmbH)」、「MERLIC(MVTec Software GmbH)」、「MATLAB (The MathWorks)」、「LabVIEW (National Instruments)」、「VisionPro (Cognex Corporation)」といった製品があります。

画像処理アルゴリズムの構築

効果的な画像処理機能は、対象物の特性と検査要件によって決まります。例えば、外観検査では欠陥の種類(傷、汚れ、色むら)に応じて適切なフィルタリング手法を選択し、寸法測定では高精度なエッジ検出機能が必要になります。

また近年では、ディープラーニング機能の実用化が進んでおり、従来のルールベース処理では困難だった複雑な判定も可能になっています。

アプリケーション開発の一般的なプロセス

画像処理アプリケーション開発は以下のプロセスで進行します。

■要件定義:検査対象、精度要求、処理時間要件の明確化
検査対象物の特徴(形状、色、サイズ等)と検出したい欠陥や異常を具体的に定義します。精度要求では許容される検出率や誤検出率を数値で設定し、処理時間要件では1枚あたりの処理時間や検査ラインの速度に合わせたリアルタイム性を明確化します。これらの要件は後工程の技術選定や実装方針を決定する重要な基準となります。

■アルゴリズム設計:画像処理フローの構築と最適化
前処理(ノイズ除去、正規化)から特徴抽出、判定までの一連の画像処理フローを設計します。各処理ステップで使用するアルゴリズム(二値化、エッジ検出、パターンマッチング等)を選定し、パラメータの最適化を行います。処理精度と速度のバランスを考慮して、複数のアプローチを比較検討することが重要です。

■プロトタイプ開発:基本機能の実装と検証
設計したアルゴリズムをPythonやMATLAB等で簡易実装し、サンプル画像を使って基本動作を確認します。この段階では処理精度の検証と問題点の洗い出しに重点を置き、必要に応じてアルゴリズムの修正や改良を行います。ユーザーからのフィードバックを得て要件との適合性を確認することも重要です。

■本格実装:GUI開発、外部機器連携、エラー処理実装
プロトタイプを基に実用レベルのアプリケーションを開発し、直感的なGUIの構築と各種設定機能を実装します。カメラやPLC等の外部機器との通信プロトコルを組み込み、システム全体の連携を確保します。異常時の対応やログ機能、設定保存等の運用に必要なエラー処理と管理機能も併せて実装します。

■テスト・調整:様々な条件下での動作確認
様々な照明条件、対象物のバリエーション、温度変化等の実環境を想定した包括的なテストを実施します。検出精度、処理速度、安定性を定量的に評価し、必要に応じてパラメータ調整やアルゴリズムの微調整を行います。長時間連続動作テストにより、システムの信頼性と耐久性も確認します。

■導入・運用:現場での実装とメンテナンス体制構築
現場環境での設置・調整を行い、オペレーターへの操作研修と運用マニュアルの整備を実施します。定期メンテナンス計画の策定と障害時のサポート体制を構築し、継続的な性能監視と改善を行える仕組みを整えます。運用データの蓄積により、さらなる精度向上や機能拡張の検討も並行して進めます。

開発上のよくある課題とその対策

画像処理アプリケーション開発でよく直面する課題と対策は以下の通りです。

1. 照明条件の変動

課題: 環境光の変化、影の発生、表面反射により画像品質が不安定になり、検出精度が大きく変動します。

対策: 照明系の最適化では、LED照明の配置設計や偏光フィルタの活用により均一で安定した照明環境を構築します。適応的画像処理として、ヒストグラム平坦化*や適応的二値化を採用することで、照明変動に対する耐性を向上させることができます。また、明度補正やコントラスト自動調整機能を実装した正規化処理により、環境変化に左右されない安定した画像解析を実現します。

*ヒストグラム平坦化・・・画像のヒストグラム(明度分布)を均等に分散させることで、コントラストを改善する画像処理技術。暗すぎる画像や明るすぎる画像を見やすく補正する際に広く使われる。

2. 処理速度とリアルタイム性

課題: 高解像度画像や複雑なアルゴリズムにより処理時間が増大し、生産ラインの要求速度に追いつかない問題が発生します。

対策:アルゴリズム最適化では、ROI(関心領域)設定により処理対象を限定し、並列処理を活用することで計算効率を大幅に向上させます。GPU計算や専用画像処理ボードの導入といったハードウェア強化により、従来のCPU処理では困難だった高速処理を実現できます。さらに、前処理の簡素化や重要度に応じた段階的処理といった処理の分散化により、全体的な処理時間を最適化します。

3. 検出精度とロバスト性*

課題: 対象物のバリエーション、ノイズ、経年変化により誤検出や見落としが発生し、実用的な精度が確保できません。

対策:ディープラーニングによる特徴量自動抽出を活用した機械学習により、従来の手作り特徴量では対応困難だった複雑なパターンにも対応できます。異なるアルゴリズムの結果を統合する複数手法の組み合わせにより、単一手法では検出困難な事例にも対処可能となります。運用データを用いた定期的な再学習による継続的学習システムを構築することで、時間経過とともに精度が向上し続ける仕組みを実現します。

*ロバスト性・・・システムやアルゴリズムが外乱や予期しない条件変化に対しても安定して動作し続ける能力のこと。「頑健性」とも呼ばれ、実用的なシステムには欠かせない重要な特性。

4. ハードウェア連携の複雑さ

課題: カメラ、照明、制御機器との通信プロトコルが異なり、システム統合時にトラブルが多発します。

対策:GenICamやGigE Visionといった標準インターフェースを採用することで、異なるメーカー間での互換性を確保し、システム統合の複雑さを軽減します。エラー検出・再送機能やハートビート監視*による通信の安定化により、長期間の連続運用での信頼性を向上させます。各機器を独立したモジュールとして設計するモジュラー設計により、保守性と拡張性を両立した柔軟なシステム構成を実現します。

*ハートビート監視・・・システムが正常に動作していることを定期的に確認する監視手法です。心臓の鼓動(ハートビート)のように、一定間隔で「生存信号」を送受信することで、機器やプロセスの稼働状態を監視します。

5. 開発期間とコストの制約

課題: 要求仕様の複雑化により開発期間が延長し、予算超過や納期遅延が発生します。

対策: MVP(最小機能プロダクト)から始めて段階的に機能拡張する段階的開発により、早期に実用的なシステムを構築し、ユーザーフィードバックを継続的に取り込むことができます。OpenCVやディープラーニングフレームワークといった既存ライブラリを積極的に活用することで、ゼロからの開発を避け、開発効率を大幅に向上させます。早期の概念実証によるプロトタイピングを重視することで、技術的リスクを低減し、本格開発での手戻りを最小限に抑えます。

6. 運用・保守の困難さ

課題: 現場での設定変更、障害対応、定期メンテナンスが技術者でないと対応できない状況が発生します。

対策:環境変化に応じた自動キャリブレーション機能を実装することで、専門知識のないオペレーターでも安定した運用を継続できます。ネットワーク経由での状態監視・設定変更が可能な遠隔監視システムにより、現地に技術者が常駐しなくても適切な管理が行えます。障害原因の特定を容易にする詳細なログ記録機能により、トラブル発生時の迅速な対応と再発防止策の策定が可能となります。

7. データセットの不足

課題: 機械学習を活用する際に、十分な学習データや異常サンプルが収集できません。

対策:回転、拡縮、ノイズ付加による学習データ増強といったデータ拡張技術により、限られた実データから多様な学習サンプルを生成します。CGによる仮想データ生成を活用したシミュレーションにより、現実では取得困難な異常パターンや極端な条件でのデータを補完できます。既存の学習済みモデルを活用した転移学習により、少ないデータでも効率的に高精度なモデルを構築することができます。

8. 環境変化への対応

課題: 温度変化、振動、電磁ノイズ等の環境要因により性能が劣化します。

対策:温度センサーによる補正や振動対策といった環境補償機能により、外部環境の変化に対してシステム性能を一定に保つことができます。工業用機器の採用やEMC対策の実施による堅牢性設計により、過酷な産業環境での長期安定運用を実現します。基準サンプルを用いた自動校正機能により、経年変化や環境変動に対してシステムが自律的に性能を維持する仕組みを構築します。

これらの課題は相互に関連することが多いため、プロジェクト初期段階での包括的なリスク分析と対策計画の策定が成功の鍵となります。

初心者にもおすすめの画像処理ソフトウェア ~MERLIC~

画像処理を自社開発したいけれど、プログラミング経験がなく、何から始めてよいのかわからない…。そのような方におすすめしたいのが、MVTec社が開発した短時間で画像処理アプリケーションを構築できるソフトウェア、MERLICです。

MERLICの基本機能

MERLICはプログラミングレスで画像処理アプリケーションを短時間で構築できるソフトウェアです。画像処理の専門的な知識を持たずとも直感的なマウス操作だけで高機能な処理フローを作成でき、GUIの構築までを包括した”all-in-one”の画像処理ツールです。

MERLICの主な特徴

①プログラミング不要(ノーコード)
複雑なコードを書くことなく、マウス操作だけで画像処理のフローを構築できます。これにより、開発時間を大幅に短縮し、導入コストを削減できます。
また、ドラッグ&ドロップでツール(画像処理機能)を配置し、それらを接続するだけでアプリケーションが完成します。

②画像中心の直感的なユーザーインターフェース
ソフトウェアの中心には常に画像が表示され、その画像を見ながら直接、処理の設定や結果の確認ができます。
画像処理の各ステップが視覚的に表現されるため、ワークフロー全体を把握しやすくなっています。

③easyTouch™コンセプト
MERLIC独自の革新的な機能です。マウスカーソルを画像上の対象物に合わせるだけで、MERLICが自動的に対象物を認識・マークします。ユーザーはワンクリックで対象を抽出する画像処理を実装でき、複雑なパラメータ設定が不要になります。

④オールインワンの統合環境
画像取得から画像処理アルゴリズムの開発、外部機器との連携、そして最終的なユーザーインターフェース(GUI)の作成まで、マシンビジョンアプリケーション開発の一連の流れをMERLIC単独で完結できます。
「MERLIC Creator」で画像処理アルゴリズムを作成し、「MERLIC Designer」でGUIをデザイン、「MERLIC Frontend」で作成したアプリケーションを実行します。

⑤画像処理ソフトの専門家が提供する高機能な画像処理ツール
プログラミング不要でありながら、画像処理ソフトの先駆者であるMVTec社の、長年のマシンビジョンに関する専門知識に基づいた信頼性と高速性に優れた画像処理ツールが提供されます。
一般的な画像取得、キャリブレーション、アライメント、計測、カウント、チェック、読取(バーコード・データコード)、位置決め、3Dビジョン(高さ画像など)といった幅広いツールが含まれています。

⑥ディープラーニング機能の搭載
オプションで最新のディープラーニング機能も利用可能です。

■画像分類: 画像の良否判定や欠陥分類に利用できます。

■アノマリー検出(異常検知): 正常な画像のみを学習させることで、未知の異常を検出する機能です。教師データが少ない場合でもAIを活用できます。

■Deep OCR:画像中から自動で文字領域を抽出し、文字認識を行う機能です。

■セマンティック セグメンテーション: 画像中の特定の領域を正確に分割する機能です。

ディープラーニング機能を活用することで、従来のルールベースでは困難だった、複雑な検査や欠陥分類にも対応できます。

⑦豊富な通信機能と連携
PLC(プログラマブルロジックコントローラ)やロボットなどの外部機器との通信プラグインが豊富に用意されており、システムへの組み込みが容易です。
TCPソケット通信プラグインなど、汎用性の高い通信オプションも提供されます。

⑧GUIのカスタマイズ性
「MERLIC Designer」を使用して、エンドユーザー向けのカスタムGUIを簡単に作成できます。ウィジェットと呼ばれる表示パーツと画像処理ツールの結果をリンクさせることで、直感的な操作画面を構築できます。

⑨幅広い対応環境
WindowsベースのPCシステムだけでなく、LinuxベースのPCシステムやArmベースの組み込みプラットフォームでも利用可能です。

MERLICが向いている人

■プログラミング知識が乏しい生産技術者や現場担当者
画像処理システムを自社で簡単に構築・運用したいと考えているが、専門的なプログラミングスキルがない人。

■短期間で画像処理アプリケーションを導入したい企業
試作から実運用までのリードタイムを短縮したい場合。

■複雑な画像処理よりも、基本的な検査や計測、識別がメインのアプリケーション
高度なアルゴリズム開発よりも、既存のツールを組み合わせて効率的に課題を解決したい場合。

■AIを工場現場に手軽に導入したいが、AIの専門家がいない企業
アノマリー検出などのディープラーニング機能をノーコードで利用したい場合。

■システムインテグレーター(SIer)
迅速なPoC(概念実証)や小規模システムの開発を行いたいSIer。

MERLICは「プログラミングなしで手軽に、しかし高機能なマシンビジョンシステムを構築したい」というニーズに応えるソフトウェアと言えます。まずは無償のデモライセンスで使い心地を試してみるのもよいかもしれません。

まとめ

製造業のデジタル化に伴い画像処理技術への需要が急増している中、本記事では開発の基礎から実践的プロセスまでを詳しく解説しています。OpenCVなどの無償の画像処理ソフトウェアからHALCON、MERLICといった有償のソフトウェアの選択肢を示し、照明変動、処理速度、検出精度など8つの主要課題とその対策を具体的に紹介しました。特にプログラミング不要でディープラーニング機能も搭載したMERLICツールを推奨し、easyTouchコンセプトによる直感的操作を強調しています。要件定義からアルゴリズム設計、プロトタイプ開発、本格実装、テスト・運用まで段階的な開発手法により、プログラミング経験のない生産技術者でも効率的な画像処理システム構築を実現できる内容となっています。

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株式会社リンクスは、最先端の技術を世界中から誰よりも早く発掘し、技術力と経験を持って製造現場に実装する、テクノロジープロバイダです。

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私たちは、まだ世界から発見されていなかった天才たちが作り出した技術を送り届けています。しかし、ただ新しい技術を発見するだけではなく、それぞれの現場に適応できるよう、技術を磨き、お客様へ届けることをミッションとしています。

私たちのビジョン

「工場から人を消す -究極の生産効率の最適解を届ける-」
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