■ 極座標変換を利用した欠陥領域の抽出

HALCONでは、フィルタや位置決め、領域操作などの基本的な機能の他にも、画像処理に有効な様々な機能をサポートしています。今回は、HALCONの極座標変換機能と動的しきい値処理を組み合わせることにより実現した事例についてご紹介します。

ホース内壁の検査

今回の事例は、ホース内壁に現れる白い筋の領域を抽出するアプリケーションです。

右図はホース内部を撮影した画像です。円の外側の真っ黒な部分は検査範囲外です。右図より、左下(8時の方向)にホースの手前(画像では輪郭側)から奥(画像では中心)に白い筋が延びているのが確認できます。この白い筋はホース内壁のどこに現れるか分からず、また手前と奥で輝度に差があるため、単純な2値化処理では対応することが困難です。白い筋の他にも細かい反射領域が多数存在しており、これらの影響でさらに検出が難しくなっています。


検査画像に対し、特殊な2値化処理である動的しきい値処理を適用してモフォロジー処理を行った結果が右図になります。動的しきい値処理は、輝度ムラが存在する画像において局所的に特徴的な領域を検出することができる、非常に有効な手法です。今回の事例でも、欠陥候補領域を抽出することができています。しかしながら、今回の事例は検査対象が円形状であり、またホースの輪郭側が局所的に明るいため、輪郭側の領域が白い筋の領域と同様に抽出されてしまいます。このままの状態では欠陥領域は明確な特徴をもたないため、欠陥領域のみを抽出するには複雑なモフォロジー処理や特徴量解析を必要とします。


* 動的しきい値処理の詳細はこちら↓

LinX EXPRESS Vol.054: 特殊2値化手法による外観検査
  

このような円形状の対象物における欠陥抽出では、画像の極座標展開が極めて有効です。

HALCONでは展開中心や範囲を指定するだけで、画像に対して容易に極座標変換を適用することが可能です。また、極座標展開は画像のみでなく、領域やXLDデータに対しても適用可能です。
今回の例では、画像の極座標変換を利用した処理の流れを以下にご紹介します。

  

(1) 極座標変換に必要な展開中心、範囲を指定するため、ホース領域を2値化処理により抽出します。抽出した領域に円フィッティングを行うことで、展開中心であるホースの中心と、ホースの領域を求めることができます。

(2) (1)の情報を基に、極座標変換を行います。図(2)はこの結果を示しています。

(3) 極座標変換を適用した画像に対し、特殊な2値化処理である動的しきい値処理を行います。


(4) 動的しきい値処理の結果、欠陥候補領域を抽出することができましたが、依然として輝度ムラや反射部分の影響は存在しています。しかし、極座標変換を行ったことで、モフォロジー処理やブロブ解析を有効に適用することができます。図では(3)で得られた領域をラベリング処理した結果を示しています。

(5) 極座標展開を行ったことにより、欠陥領域は「ある一定の幅」をもち「縦方向に長い」という明確な特徴をもちます。この欠陥領域の特徴を考慮して、縦方向にのみ大きく膨張し、それから収縮させるというモフォロジー処理を適用することでほぼ欠陥領域のみに絞り込むことができます。加えて、形状特徴である面積値を基に領域の選択を行うことで、最終的に画像中から目的とする欠陥領域だけを抽出することができます。

(6) (5)で検出できた欠陥領域に極座標逆変換を適用することにより、元画像において白い筋の欠陥領域を正しく抽出できていることが確認できます。


以上のように、輝度ムラや反射部分が多く存在する円形状の対象物に対しても、HALCONがサポートする極座標変換を利用することで処理しやすい状況に落とし込むことができます。極座標変換以外にも、原画像のままでは複雑な処理を簡易化する有用な機能を、HALCONでは数多くサポートしています。
 
 

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