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 CMOS ハイスピードラインスキャンカメラ: sprint

LinX Expressでは、シリーズ企画としてBASLERカメラの技術的背景を解説した技術白書を順次紹介していきます。 『BASLER技術白書』シリーズでは以下のような内容を予定しています。

■CMOSハイスピードラインスキャンカメラ:sprint
■GigE Vision:CPU負荷と画像取得待ち時間
■BASLER pilotシリーズのタップバランス技術
■検査仕様を満たすために必要となるピクセル数

初回となる本号では、「CMOSハイスピードラインスキャンカメラ」と題して、世界最速ラインセンサーsprintシリーズの技術白書を紹介します。 この内容はより詳細な解説等を含んだ完全版から抜粋したものです。完全版については こちらからご覧ください。

 

CCDセンサー VS CMOSセンサー

  
画像処理の高精細化が進む中で、大容量画像の取り込みの高速化に対する要求も同時に高まり続けています。 この要求に応えるための鍵は、データ転送能力の更なる拡張にあります。

現在の多くのラインスキャンカメラはCCD (Charged Coupled Device)センサーを採用しています。 CCDセンサーは低速取り込み時には非常に高画質な画像を取得できるというメリットがありますが、高速取り込みを実現するためには、仕様上カメラの筐体サイズが大きくかつ高価になってしまいます。

そのためsprintシリーズでは、ラインスキャンCMOSセンサーという全く新しいアプローチがとられました。

CMOSセンサーは取込速度の観点からCCDより優れた性能を発揮できる点に加えて、価格面でも低価格というメリットがあります。 また、チップ製造技術の向上により、現在のCMOSセンサーは優れた低ノイズレベルと均一性の特性を獲得しています。 今日のCMOSセンサーは、CCD技術の優れた画質を実現しながらも、価格や速度などの利点を維持したものとなっています。
   

CMOSセンサーのラインスキャンカメラへの適用

  
ラインスキャンCMOSセンサーとエリアスキャンCMOSセンサーには、下記のような違いがあります。

1. エリアカメラにおけるCMOSセンサーのフィルファクターは通常10%から70%しか得られない一方、ラインセンサーの場合は100%のフィルファクターを得ることができる

2. スペースの制約はCMOSエリアセンサー上のトランジスターを1ピクセルあたり1.5〜7.0個にまで抑えなければならない一方、ラインスキャンセンサーの場合はトランジスターの個数に制約はない

このうちの2では、ラインセンサーのCMOSセンサー1つ1つの電子回路に十分なスペースがあることを表しており、つまりはラインセンサーCMOSにはより高度な機能を搭載することが可能であることを意味しています。 このため、高いゲインを取得するための集積回路を付加することで高感度を実現したり、ノイズを除去するための特殊な回路を実装することでノイズレベルに優れた画像を実現することが可能です。

CMOSセンサー

 

最新CMOSセンサー技術が搭載されたBASLER sprintシリーズ

 
BASLER sprintシリーズには、最新CMOSラインスキャンセンサー技術が採用されており、前述の利点を体現した仕様となっています。 sprintシリーズはノイズレベルにおいて、最先端のCCDカメラと同等以上の性能を発揮するとの評価結果も出ています。 さらに空間的性能と直線性についても、CCDセンサーに十分匹敵する性能が得られています。

加えて、sprintシリーズには100%のフィルファクターをもつ非常に高感度なCMOSラインセンサーが、ライン間の隙間なく2ライン並列に実装されています。

sprintシリーズには1つのラインのみを使用するSingle lineモードと2つのラインを使用するDual lineモードが搭載されており、Single lineモード時には最大70KHz、Dual lineモード時には最大140KHzという驚異的なラインレートで動作させることが可能です。

センサーが2列並んでいるため、まず片方のライン(ラインA)で撮影し、次にもう一方のライン(ラインB)で同じ場所を撮影するといったように、カメラの下を通過していく対象物の同じ領域を2度撮影することが可能です。 また、それぞれのラインにおいて撮影された画像の輝度値を足し合わせたり(ライン間輝度積算機能)、平均をとる機能(ライン間輝度平均化機能)が実装されており、これにより感度を倍増させるなどのメリットを得ることが可能です。

ライン間輝度平均化機能では、読み込みノイズを減らし、カメラの全電荷量、ダイナミックレンジ、S/N比をそれぞれ約3dBずつ増加させるという利点があります。 また、ライン間輝度積算機能では、S/N比と感度をともに約3dB向上させることが可能です。 この平均および加算を適用した場合においても、Single lineモード同様70KHzのラインレートを実現することが可能です。

また、入力信号1回おきに、2ラインの画像を同時に撮影することも可能です。 これにより出力ラインレートを140kHzに倍増させることが可能となっています。 高いラインレートでの取込時には露光時間が非常に短くなってしまうため、高いゲインと優れた感度を持つセンサーが必要となります。 sprintシリーズでは、この高速取り込みを実現するにあたって、sprintのために設計された特殊なCMOSセンサーが搭載されています。 読み込みノイズが少なく、高いダイナミックレンジが実現されており、高速取り込み時においても非常に高感度かつ高精細な画像を取得することが可能です。

    

 

ラインセンサーカメラの今後の動向


長期的には、ラインセンサーカメラの市場においても、既にエリアスキャンカメラの市場で行われているようなCCDからCMOSへの移行が予想されます。 CMOSラインスキャン技術は、マシンビジョン市場、特に高いラインレートにおける低ノイズが求められるようなハイエンドなアプリケーションにおいて、急速に広がり重要な役割を果たすことが期待されています。 
 

 

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BASLER技術白書『CMOSハイスピードラインスキャンセンサー』完全版はこちら